察人姫-第壱話-
壱ノ壱
私立青英(セイエイ)大学。
偏差値は中の上。
歴史は十二年と新しく、特別有名なOBがいるわけではない四年制の大学。
だが、安定した高い就職率と豊かな設備から近年密かに注目されており、受験者数は徐々に増加している。
その青英大学には二人の有名人が存在する。
「ユーイチ、ノート貸して」
「また写し損ねたのかよ、ソラ」
自称名探偵の女学生・佐伯空。
と、その幼馴染みにして親友である誰もが憧れる天才・浅蔵祐市。
『M30101、浅蔵祐市君ならびにE20414、佐伯空さん。お客様がいらしてます。学生課へお越しください』
「おっ?」
「愛ぽんの声だね」
新人事務員の本田愛の声がスピーカーを通して大学構内に響き渡る。
ちなみにMやらEは二人の学部を表し、それに続く数字は学年・組・番号を表す。
つまりユーイチは三回生で、ソラは二回生。
二人は先輩後輩の間柄でもあるのだ。
「とりあえず行くか」
「そだね。けど何だろ?」
「名探偵さんに依頼かもな」
「それはないない」
「……お前が言うなよ」
このユーイチの皮肉めいた言葉が現実になろうとは、今の二人には知るよしもなかった。