察人姫-第壱話-
零
とある喫茶店。
「キミは不思議だとは思わないかい?」
彼女は目の前に座る男に訊ねる。
「何が不思議だって?」
「人間だよ。ヒトだよ。ヒューマンだよ」
「漠然とし過ぎで答えようがないな。そもそも答えるつもりもない」
男はまだ湯気の立ち上るコーヒーを口に含み、馬鹿馬鹿しそうに答える。
「まあ聞きなよ。時間はたっぷりある」
彼女は続ける。
「例えば、なぜ我々ヒトは学校などというものに通うのだろうか?」
「よりによってそんなことか。もっと壮大なテーマを期待したんだがな」
「いいから、キミの意見を聞かせてくれないか?」
「……生きていくためじゃないのか?まともに教育を受けなきゃ満足な生活は送れないだろうからな」
「なるほどね。だが、他の動物は違う。本能や親が生き方を教える。学校なんて環境は存在しない。めだかの学校なんてものがあれば別だがね」
「人間社会は複雑なんだよ」
男は投げやりに答え、小さなサンドイッチを口に運ぶ。
「だったらお前はどう答える?まさか不思議ですの一言で済ます気じゃないだろうな?」
「もちろんさ。とは言っても期待はしないで欲しい。私が見つけた答はおそらくキミにとってかなりくだらないものだろうからね」
「もったいぶるなよ。聞いてやるから言ってみろ」
「ああ、そうだね。これは私が探偵ごっこを始めた頃の話になる」
そんな彼女の回想と共に、一つの物語が幕を開ける。