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天井桟敷で逢いましょう 第一話 家の話

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「樟里たち大崎姉妹に、お前の名義になっているここの権利書を正式に譲り渡してやってほしいのだ。あれは……樟里とって、このホールは自分の人生のほとんどが詰まった“家”なんだ。名実ともにここの主にしてやるぐらい、要求してもバチは当たらぬだろう?」
 それは……あまりにも真っ当で逆らってはならないと思わせる、当然の要求であったろう。
「わかりました、約束します」
「実印も念書も要らんぞ」
 にやり、と高坂先生は笑う。
 冗談めかしているが、この口約束はどんな実印、念書、サイン、契約書などよりも、俺にとって重いものである事だけは確かのようであった。
 くれぐれも忘れないようにしよう。
 そう思った。

 こうして、おれはこの奇妙な演芸ホールと劇団に身を置く事になったわけである。
 どうにも癖の強い連中に囲まれ、俺は俺で到底真っ当とは言えない立場と性格故に、どんな事になるかはわからない。
 ただ、なにはともあれ、全てを失った俺に。
 居場所と目的が出来たのだけは確かなようであった。
 とりあえず、その二つが確かならば、人生はなんとかなる。
 そう言ったのは誰だったか?
 思い出すのも、遺書探しも、何もかも、とりあえずは今夜ぐっすりと眠ってから考える事にしよう。
 おやすみ。
第1話 了