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てっしゅう
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「哀の川」 第十七章 心変わり

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「うん、ボクと女子が二人かな・・・先輩が女子だから男はボクだけなんだよ。早く男子部員を探さないと参っちゃうよ」
「ええ?贅沢な悩みね、ハハハ・・・モテ男くんになった気分はどう?」
「誰が?ボクがかい?女子高生だよ、子供だもん・・・」
「へえ〜そうなふうに感じるんだ・・・知らなかった」
「そうさせたのは・・・杏ちゃんがいるからだよ。あいつら話がガキっぽいもの」
「責任重大ね・・・私って。でもね、これから純一は先輩になってゆくわけだから、後輩の面倒を見るということには関心を持たなくちゃね。特に女性は難しいからしっかりしないと嫌われるよ」
「解っているよ。この四月に入ってくる新入部員に期待かな?ハハハ・・・」
「純一には夢があるね・・・これから楽しいことがいっぱい来るよ。楽しみだね」
「うん、そうだといいけど・・・さあ、寝ようか」

この頃は毎日のように抱き合うことはしなくなっていた。情熱が冷めたのではなく、そういうペースでもお互いに我慢が出来るようになったのだ。


1996年も4月に入った。桜が満開になっている入学式の校舎を純一は新入部員獲得のために走り回っていた。優しそうな雰囲気の男子を見ると声をかけて勧誘していた。
「ESSです。これからは英語が大切な時代!ぜひ一緒に楽しんで学習しませんか?」
片っ端から断られる。勧誘に応じるのは女子ばかり・・・

入学式の日も昼に近くなってきて新入生もまばらになってきたころ、一人の女子が純一の前に近寄ってきて、入部希望を告げた。
「あのう・・・早見と言います。入部希望なんですが、よろしいでしょうか?」
「はい、ありがとう。じゃあ今から部室に戻るところだから着いておいでよ」
「はい」純一の後を着いて校舎の奥に建っている二階建ての部室棟に来た早見は、自分のほかに数名がすでに座っている狭い部屋に入った。

「新しく入部希望の早見さんです。よろしく!」いっせいに皆は頭を下げて挨拶を交わした。
三年生が部の説明をして最後に入部届けを書いてもらってその場にいた五人全員が新入部員となった。純一は一人の男子なので二年生ながら部長になった。活動のあらましを話してその日は終了となり、解散した。駅に続く帰り道、後ろから新入部員の早見が駆けてきて、純一に追いついた。
「先輩!待って下さい。確か、人形町まで帰るんですよね?時々地下鉄の車内で見ていましたから・・・私も同じところなんです。一緒に帰りませんか?」
「そうなんだ、いいよ、じゃあ挨拶代わりに昼ごはんでも食べて行くか?腹空いているだろう?」
「本当ですか?嬉しいです!すぐそこにファミレスありますよ」
「じゃあ、入ろう!」

純一は店を手伝っているから、杏子から少しお金をもらっていた。懐がいつも裕福な高校生になっていた。そして何より女性に対しては解りすぎている高校生でもあった。

「ねえ、僕を見かけたって言ったよね?人形町の駅から中学も通っていたの?」
「はい、同じ中学ですから」
「そうなんだ。ボクは高校からだから初めて見るけど、すでに知られていたなんてびっくりだなあ」
「先輩のこと・・・素敵だなあって、私のほかにも友達が皆そう言っていますよ!ちょっと悔しいけど・・・」
「ええ?本当かい?まあ、お世辞言っても何も出ないけどね」
「お世辞なんかじゃないですよ。少なくとも私は・・・」
「ふ〜ん、嬉しいね。じゃあ今日は御馳走するから、何でも食べて!」
「はい!ごちになります」

会話は子供の頃のこと、お互いの両親のこと、趣味のことなどいっぱい話した。純一は久しぶりに同じような歳の女性と二人きりで話した。次から次へと話題が出て、受け答えに楽しい時間を感じた。年齢が近いもの同士だけが話せる悩みや夢などもいっぱい知った。何時間が過ぎただろう。帰る時間を言い出した。

「早見君、もう帰ろうか?遅くなるといけないから」
「ええ、先輩!あのう二人だけの時には、純一さんと呼んでも構いませんか?私のことは由佳と呼んでください」
「早見君・・・今日会ったばかりだよ。親しくしたら部活が出来なくなるよ。卒業までは先輩と後輩だよ。じゃなきゃもう二人では会えないよ」
「先輩は・・・私のことが嫌いですか?他に好きな人がいるんですか?」
「なんだよ、いきなり・・・」
「ずっと以前から、初めて見た時から、好きでした。女の私から言うのは恥ずかしいですが、今日しかないと思って・・・」
「入部したのもそのためだったの?」
「はい・・・先輩に近づくため、です。すみません・・・」
「困るよ!軽々しく考えちゃ・・・仕方ないなあ・・・」

由佳はうつむいて今にも泣きそうな表情になっていた。純一は困ったが、今ははっきりと言わずにこのまま帰ろうと決めた。次に会う日を決めて、二人は地下鉄に乗って帰り道を急いだ。始業式があって、最初の部活の日、由佳は一番先に来ていた。今日、またあのファミレスでランチをする約束をしていたからだ。