「初体験・千代子編」 第一話
千代子編 第一話
新学期が始まってそろそろ大学の受験校を決める段階になっていた。親子面談でも雄介は京都産大と近大を担任に話してある程度の了解をもらえていた。今の学力で100%ではないが80%以上の確立で合格出来るだろうと統一試験の結果からそう言われていた。
ずっと続けてきたレストランのバイトも辞めた。小遣いは無くなってしまったが時間は出来た。佳恵とも受験を理由に逢う回数を減らしていた。10月になって直ぐに千代子に電話をした。
「遅くなってすみません。今度の日曜日都合がつきました」
「待ってたのよ。そう・・・どうしようか、こっちまで来れる?」
「京都でしたよね。直ぐですから大丈夫ですよ」
「京阪だったわよね?なら四条駅にしましょう。10時でいいかしら?」
「解りました。ラケット持って行った方がいいかな?」
「是非そうして・・・タオルもね、汗かくから」
「うん、汗を流しに風呂に行かないといけないね・・・まだ開いてないか、ハハハ・・・」
「面白い人・・・楽しみにしてるから、じゃあ」
「はい、日曜日に・・・」
雄介は久しぶりにラケットを取り出して素振りを始めた。
「雄介、何してるの?」
「母さん、久しぶりに卓球するんだよ」
「誰と?」
「言っただろう、旅行で知り合った人達と」
「そうなの・・・あんなに一生懸命にしてたのに辞めちゃったから、残念だったわね。趣味でやるのもいいけど今は受験だから考えて行動してね」
「解ってるよ・・・」
親の気持ちが解らないではなかったが、自分のすべてが見張られているように感じて鬱陶しく感じてしまった。何かと親には素直になれない自分がいた。心配してくれている母親の気持ちは嬉しいけど男としてあまリ干渉して欲しくないと、いつも思っていた。嘘はつきたくなかったがそうしたほうが何事もなく収まるからと自分をごまかしていた。
京阪四条駅に着いた雄介はしばらくぶりで千代子と再会した。見違えるほど服装と雰囲気が違って見えた。それは旅行のときのようなラフなスタイルではなく、膝上丈のスカートにシャツ姿だったことも影響していた。
「お待たせしました。誰だか解らないぐらいに違って見えました。ビックリです」
「雄介さん、おばさんに見えたって言う事?」
「違いますよ!大人だって感じたんです」
「ほんと?なら嬉しいかも・・・雄介さんこそ高校生に見えないぐらいお洒落にしているじゃない。素敵よ」
「嬉しいです。俺ラケット持って来ましたよ」
雄介はそれを見せた。
「使い込んであるのね・・・部活やっていただなんて聞いてビックリしたわ。何か縁なのかしら・・・」
「そうかも知れません。ただし一年の三学期に先輩が後輩に暴行を働いて休部になっちゃたんです。泣く泣く解散して、俺は二年の新学期から英語クラブを立ち上げて始めましたけど全然集まらなくて男二人で一年間過ごしました」
「そんな事があったの・・・残念ね。でも雄介さんが三年間部活やっていたら私なんか相手にはならなかったでしょうね。今のほうが面白いかもしれないって思うわよ」
「今は全然相手になんかなりませんよ。迷惑かけるかも知れないから覚悟しててください」
「いいのよそんなこと。じゃあ行きましょうか」
千代子は毎週のように来ている卓球場に案内してくれた。靴を運動靴に履き替えて二人は台に向いあった。
「よろしくお願いします」
初めは軽くラリーをして楽しんでいたが、慣れてきたところで真剣勝負をしようと千代子が言い出した。
「三回勝負で行きましょう。あなたからのスタートでいいわよ」
「勝負なんですよね?何賭けます?」
「えっ?・・・何って・・・負けたら雄介さんの欲しいもの買ってあげる」
「じゃあ俺は負けたらどうなるの?」
「私の言う事聞いて欲しい」
「はい、そうしましょう」
雄介にとってはどちらでも自分に都合のよい結果となる勝負だった。
一対一で三回目の勝負に持ち越された。雄介は千代子の腕が自分より勝っているとは思えなかったが、みえみえで負けるわけには行かなかったから、スマッシュで失敗するようにした。一進一退が続いて・・・最後のバックハンドがネットに掛かって雄介の負けが
決まった。
「残念!口惜しいなあ・・・」雄介はそう言った。
「もう一番やる?それで決めてもいいよ」千代子は笑いながらそう言った。
「それはいやだよ。なんか負け惜しみに感じるから。決めた事に従いますよ」
「男らしいのね・・・暑いわ、こんなに汗が出ちゃった・・・雄介さんも同じよね?」
「はい、久しぶりに運動しましたから汗びっしょりです」
「じゃあ、約束ね。汗流したいし・・・黙って着いて来て、いい?」
「どこへ行くんですか?」
「だから・・・黙って着いて来てって言ったでしょ!約束なんだから・・・」
「はい・・・」
二人は外に出てしばらくして木屋町通りの高瀬川沿いを歩いた。立ち止まって千代子は話しかけてきた。
「雄介さん、私ね来月お見合いをするの・・・ずっと前から両親に薦められていて断る理由に旅行に行ったんだけどもうダメ。受ける事にしたの。23歳だものね、結婚を真面目に考えなくちゃいけないって親は言うのよ。本当はしたくないけど、いつかはやってくるからもし嫌な人じゃなかったら・・・決めようかって考えているの」
「そうでしたか、良かったじゃないですか。俺なんかは全然考えないけど、千代子さんならもう適齢ですよ。幸せになってください」
「ありがとう・・・私は短大を出て今の第一に入行したでしょ(当時の第一銀行)好きな人もいなくて恋愛もしてこなかった。男の人と縁がなかったのね。雄介さんに妙智寺で裸見られてとても恥ずかしかったけど、何故かあなたの事がずっと気になってしまったの。
彼女がいると思うけど・・・今日だけ友達じゃなく彼女にして・・・こんな年上だけどダメかな?」
「結婚されるのにいいんですか?」
「何も知らずにこのまま結婚するのが嫌なの・・・あなたには解らないと思うけどね」
「何かを吹っ切るためにですか?」
「あら、そんな事が解るの・・・雄介さんってひょっとして経験があるの?」
「まだ高校生ですよ・・・経験なんて無いです」
「そうよね・・・でも彼女はいるんでしょ?」
「はい、一応はね。気になりますか?」
「お付き合いしたいって言うわけじゃないから気にならないわよ」
「なら・・・いいですが」
「雄介さんが許してくれるのだったら・・・初めての人になって欲しい」
「俺なんかでいいんですか?高校生ですよ」
「ううん、あなたが・・・いいの。本当のことを言うと・・・あの時から好きになっていたの。5歳も上なのに何思っているんだろうって恥ずかしくなったけど、気持ちは変わらなかったの」
「嬉しいです。俺なんかを好きになってくれて。千代子さんはとても綺麗な人ですからお幸せになりますよ」
「どうして、そう思うの?それに綺麗なんかじゃないし・・・無理してそう言ってくれるのよね?」
「いいえ、本当のことです。お相手の男性があなたを好きになることは間違いないです。きっと大切にしてくださいますよ」
新学期が始まってそろそろ大学の受験校を決める段階になっていた。親子面談でも雄介は京都産大と近大を担任に話してある程度の了解をもらえていた。今の学力で100%ではないが80%以上の確立で合格出来るだろうと統一試験の結果からそう言われていた。
ずっと続けてきたレストランのバイトも辞めた。小遣いは無くなってしまったが時間は出来た。佳恵とも受験を理由に逢う回数を減らしていた。10月になって直ぐに千代子に電話をした。
「遅くなってすみません。今度の日曜日都合がつきました」
「待ってたのよ。そう・・・どうしようか、こっちまで来れる?」
「京都でしたよね。直ぐですから大丈夫ですよ」
「京阪だったわよね?なら四条駅にしましょう。10時でいいかしら?」
「解りました。ラケット持って行った方がいいかな?」
「是非そうして・・・タオルもね、汗かくから」
「うん、汗を流しに風呂に行かないといけないね・・・まだ開いてないか、ハハハ・・・」
「面白い人・・・楽しみにしてるから、じゃあ」
「はい、日曜日に・・・」
雄介は久しぶりにラケットを取り出して素振りを始めた。
「雄介、何してるの?」
「母さん、久しぶりに卓球するんだよ」
「誰と?」
「言っただろう、旅行で知り合った人達と」
「そうなの・・・あんなに一生懸命にしてたのに辞めちゃったから、残念だったわね。趣味でやるのもいいけど今は受験だから考えて行動してね」
「解ってるよ・・・」
親の気持ちが解らないではなかったが、自分のすべてが見張られているように感じて鬱陶しく感じてしまった。何かと親には素直になれない自分がいた。心配してくれている母親の気持ちは嬉しいけど男としてあまリ干渉して欲しくないと、いつも思っていた。嘘はつきたくなかったがそうしたほうが何事もなく収まるからと自分をごまかしていた。
京阪四条駅に着いた雄介はしばらくぶりで千代子と再会した。見違えるほど服装と雰囲気が違って見えた。それは旅行のときのようなラフなスタイルではなく、膝上丈のスカートにシャツ姿だったことも影響していた。
「お待たせしました。誰だか解らないぐらいに違って見えました。ビックリです」
「雄介さん、おばさんに見えたって言う事?」
「違いますよ!大人だって感じたんです」
「ほんと?なら嬉しいかも・・・雄介さんこそ高校生に見えないぐらいお洒落にしているじゃない。素敵よ」
「嬉しいです。俺ラケット持って来ましたよ」
雄介はそれを見せた。
「使い込んであるのね・・・部活やっていただなんて聞いてビックリしたわ。何か縁なのかしら・・・」
「そうかも知れません。ただし一年の三学期に先輩が後輩に暴行を働いて休部になっちゃたんです。泣く泣く解散して、俺は二年の新学期から英語クラブを立ち上げて始めましたけど全然集まらなくて男二人で一年間過ごしました」
「そんな事があったの・・・残念ね。でも雄介さんが三年間部活やっていたら私なんか相手にはならなかったでしょうね。今のほうが面白いかもしれないって思うわよ」
「今は全然相手になんかなりませんよ。迷惑かけるかも知れないから覚悟しててください」
「いいのよそんなこと。じゃあ行きましょうか」
千代子は毎週のように来ている卓球場に案内してくれた。靴を運動靴に履き替えて二人は台に向いあった。
「よろしくお願いします」
初めは軽くラリーをして楽しんでいたが、慣れてきたところで真剣勝負をしようと千代子が言い出した。
「三回勝負で行きましょう。あなたからのスタートでいいわよ」
「勝負なんですよね?何賭けます?」
「えっ?・・・何って・・・負けたら雄介さんの欲しいもの買ってあげる」
「じゃあ俺は負けたらどうなるの?」
「私の言う事聞いて欲しい」
「はい、そうしましょう」
雄介にとってはどちらでも自分に都合のよい結果となる勝負だった。
一対一で三回目の勝負に持ち越された。雄介は千代子の腕が自分より勝っているとは思えなかったが、みえみえで負けるわけには行かなかったから、スマッシュで失敗するようにした。一進一退が続いて・・・最後のバックハンドがネットに掛かって雄介の負けが
決まった。
「残念!口惜しいなあ・・・」雄介はそう言った。
「もう一番やる?それで決めてもいいよ」千代子は笑いながらそう言った。
「それはいやだよ。なんか負け惜しみに感じるから。決めた事に従いますよ」
「男らしいのね・・・暑いわ、こんなに汗が出ちゃった・・・雄介さんも同じよね?」
「はい、久しぶりに運動しましたから汗びっしょりです」
「じゃあ、約束ね。汗流したいし・・・黙って着いて来て、いい?」
「どこへ行くんですか?」
「だから・・・黙って着いて来てって言ったでしょ!約束なんだから・・・」
「はい・・・」
二人は外に出てしばらくして木屋町通りの高瀬川沿いを歩いた。立ち止まって千代子は話しかけてきた。
「雄介さん、私ね来月お見合いをするの・・・ずっと前から両親に薦められていて断る理由に旅行に行ったんだけどもうダメ。受ける事にしたの。23歳だものね、結婚を真面目に考えなくちゃいけないって親は言うのよ。本当はしたくないけど、いつかはやってくるからもし嫌な人じゃなかったら・・・決めようかって考えているの」
「そうでしたか、良かったじゃないですか。俺なんかは全然考えないけど、千代子さんならもう適齢ですよ。幸せになってください」
「ありがとう・・・私は短大を出て今の第一に入行したでしょ(当時の第一銀行)好きな人もいなくて恋愛もしてこなかった。男の人と縁がなかったのね。雄介さんに妙智寺で裸見られてとても恥ずかしかったけど、何故かあなたの事がずっと気になってしまったの。
彼女がいると思うけど・・・今日だけ友達じゃなく彼女にして・・・こんな年上だけどダメかな?」
「結婚されるのにいいんですか?」
「何も知らずにこのまま結婚するのが嫌なの・・・あなたには解らないと思うけどね」
「何かを吹っ切るためにですか?」
「あら、そんな事が解るの・・・雄介さんってひょっとして経験があるの?」
「まだ高校生ですよ・・・経験なんて無いです」
「そうよね・・・でも彼女はいるんでしょ?」
「はい、一応はね。気になりますか?」
「お付き合いしたいって言うわけじゃないから気にならないわよ」
「なら・・・いいですが」
「雄介さんが許してくれるのだったら・・・初めての人になって欲しい」
「俺なんかでいいんですか?高校生ですよ」
「ううん、あなたが・・・いいの。本当のことを言うと・・・あの時から好きになっていたの。5歳も上なのに何思っているんだろうって恥ずかしくなったけど、気持ちは変わらなかったの」
「嬉しいです。俺なんかを好きになってくれて。千代子さんはとても綺麗な人ですからお幸せになりますよ」
「どうして、そう思うの?それに綺麗なんかじゃないし・・・無理してそう言ってくれるのよね?」
「いいえ、本当のことです。お相手の男性があなたを好きになることは間違いないです。きっと大切にしてくださいますよ」
作品名:「初体験・千代子編」 第一話 作家名:てっしゅう