Life and Death【そのに】
知った所で、自分たちにできることはあまりに少ない。だったら、放っておいた方が良いのではないかと思うところだった。
死んだモノを救うことは、生きている者にはできない。慰めを与えることが精々だ。
でも、だからこそ、せめて彼らの存在を理解し、認めてあげられたらと、思う。そして、シアはその泡沫のような衝動を胸中に仕舞い込む。
「……ところで、なんでこの話……今したの?」
ふと、今気付いたと言わんばかりに夢野は口を開いた。
「……いえ、姉はこーいう話は嫌がるので」
嫌がってコタツの中から出てこなくなる。子供っぽい姉の姿は嫌いではないが、その怯えようには少し気の毒になってしまうので、シアはあまり姉の前でこういった話題は避ける傾向にある。
「まあ、いいけど……」
さて、そうやって会話が途絶えた時だった。姉がお茶の乗ったお盆を携えて戻ってくる。
「るんたったるんたったー。これって元ネタなんなんだろ?」
とか調子に乗って畳の上に足を乗せる。
さて、こういった時、起こりえるイベントはただ一つだ。『足を滑らせお茶をぶちまける』である。
「ぅあっつぅっ!」
しかも、器用にも全部自分にぶちまけるように転ぶシノ。夢野は奇跡を見た気分になった。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
シアは急いで姉の服を剥ぎ取る。そして、赤くなったところに濡れタオルを押し付ける。
「ぅぇん……」
「本当に、姉とは思えない姉ね……というかなんで今日は服が逆なのさ」
「今日はキャラ付けの為に逆の服を着てみました。いっそ分かりやすく、姉が真っ白で妹が真っ黒に……」
「いや、キャラ薄くなってるし。ワンパターンというかなんというか」
「「なんとぉっ!」」
「なんというか、センスがないわよ。一色コーディネートって」
「「お、お前が言うなぁっ!」」
「というか、むしろ髪の色で見分けるだけで十分だから」
「「分かってたよっ!」」
「双子キャラに姉とか妹とか意味あんの?」
「「ないよっ! んなもんないの分かってるよっ!」」
落ち込む双子。結局今日一日、ずっと空回りしていただけだった。
「こっちの方が分かり易くて……インパクトがあると思ったのですけど……」
「言われてみれば、普通だよね。双子で色の使い分けって……」
そう言って、悩みだす姉妹。
「インパクトとかどうでもいいから、せめて分かりやすいようにしてよ……」
そして、その姉妹に苦言を呈する紅夢野。
ここ最近になって見られるようになった光景だった。
――ところで、この丁度いいタイミングで、このアパートの住民が一人、談話室に足を踏み入れた。
彼の名前は鍋倉義輝。晩生内五月雨にからかわれた後、更に伊皆シノの半裸を見てしまうという濃い一日を過ごすことになったのだった。
作品名:Life and Death【そのに】 作家名:最中の中