Life and Death【そのに】
そのに「私達はヒーローではありませんしね……」
「……キャラ付けは重要です」
妹のその唐突な台詞に、姉のシノは困惑した。
確かに、彼女らは双子という強烈な属性を持っていながらも、その属性を生かす特性を持ち合わせているとは言えなかった。テレパシーで繋がっているとか、ユニゾン攻撃ができるとか、そういった双子にありがちな特技特性を持ち合わせているわけではない。
「いや、私たち、十分にキャラ立ってると思うよ?」
だからといって、彼女らのキャラクター性が薄いかと問われれば、答えは否。彼女ら、仲の良さはオリガミつきで、例えば、「ツー」と言えば「カー」、「あ」と言えば「うん」。「萌え萌え」と言えば「きゅん☆」と返すぐらいの仲だ。そんな、周りがヒくほどのテンションと仲の良さで会話を行う彼女らのキャラが薄いと、誰が言えるだろうか。
「……見た目の問題です。見た目だけならそーとー地味かと思われます」
言われてみて、何となく納得するシノ。確かに、白と黒が入り混じったオセロカラーでは見る方も混乱する。
いっそ白い方が姉、黒い方が妹と覚えて貰えた方が分かり易くて良いのかも知れない。
――以上の会話が、彼女らが普段のオセロカラースタイルの衣服を完全に真っ白アンド真っ黒スタイルに統一してみた理由である。
さて、その外面的キャラ作りを試してみる為に、その辺をうろついて、アパートの住民を捕まえてみたのだが……。
「さみちゃん、きっと見た目より言動で見分けてたネ……」
試しにさみちゃんこと、晩生内さんのところの五月雨ちゃんで試してみたものの、どうやら彼女は二人を見た目で見分けているようには見えなかった。
いっそこれは双子として生まれた宿命と考え、二個で一個のキャラクターとして生きた方が楽なのかもしれない。
「まあ、その辺は追々考えるとしますか……そんなことより、ですよ」
そうだ、問題があった。
晩生内五月雨を捕まえた理由は、もう一つあった。
このアパートの大家はこちらが話さないことまで知っている節があり、更に微妙なところで口が軽い。
『そういえば、二〇一号室の部屋の子、五月雨さん。あの子の力をご存知でしょうか? 生きているもの、もしくは死んでいるモノすら殺す言葉の毒をお持ちのようなのです。それなら、例え生ける死体や不老不死のお方でも死ぬことができるのではないかと、私は思うのですが……貴方たちはどう思いますか?』
そう、まるで世間話のように口にした。
「何で知ってたんだろ……」
「……私達、話してないよね」
「きっと、偶然だよっ! あの人なりの世間話の類だよっ!」
「……そうですね。いくらなんでも、話してもないことをあの人が知っているわけがないのですっ!」
こちらは大家に自分らの事情を口にした覚えはないのだから、きっとそれは彼女なりの世間話のつもりなのだろう。姉妹は、自分らが口にしたつもりのない事情が彼女に洩れていないことを願い、そしてカマを掛けられた可能性もまた、見ないフリをした。
「……今回もハズレだったねぇ」
彼女らも時々忘れがちになるが、一応死ぬ方法を探している。
色々試してみたのだが、外的要因、内的要因で死ぬことはなかった。この体質は半ば魔法のような所業なので、理解はしていた。あと試してないのは魔術的要因、もしくは霊的要因の二つぐらいだろうか。
「大家さんはイケるって言ってたよね?」
「どうでしょうか。……もしかしたら大家さんの言っていることは間違えかも知れませんし、別の要因が合わさって初めて五月雨さんの力によって私達が死ぬのかもしれません。あるいは……」
「大家さん自体は答えを持っていなかったので、いっそ私たちを合わせてしまって答えを実証してしまうのが一番と考えたのか……」
まあ、こういうことは私達が考えても仕方ない。そう思いなおし、彼女らは考えるのを止めてしまう。大家の不気味な事情通っぷりに空寒いモノを感じたからではないことを、彼女たちの名誉の為にあえて書かせてもらおう。
「……まあ、急ぐ話でなし、人生も長いのですから……」
そうやって、問題をいつも先延ばしにしてしまう二人である。
そもそも、彼女らは死ぬことを目的としているが、生きていることもまた、目的の一つとして見ている。そして生きることは、死ぬための手段でもある。何より、たった一つしか提示されていない方法が潰れただけで落胆してしまうほど、彼女たちは悲観的でもない。
「色々行ってないところあるし……」
「テレビの続き気になりますし……」
というよりは、貪欲的でもある。割りと楽観的にこの状況を楽しんでいるところにも、彼女らがダラダラと死ぬ方法探しを先延ばしにしている理由がある。
二人してコタツの中で溜め息を付く。
「……長い人生だったねぇ」
これでは色々とダメなのではないかと思い、シノは先ほどまでの呟きをなかったことにする。コタツの中でダラダラとみかんの皮を剥いている時点で、もう手遅れだ。
「……まさかお金を借りてないのにヤクザの千本ノックの相手をするとは思いませんでした……」
主にドアとかお腹とか。
「……ヤクザで思い出しました」
「あ、これね」
そう言って、彼らの様子を見る。まだ起き上がる様子はないが、そろそろどうにかしないと目を覚ましかねない。
大柄な男が二人、白目を剥いて倒れている。死体のようにも見えるが、こう見えて生きている。
「汚い顔だろ……生きてるんだぜ……」
「……言うと思いました」
有名な名台詞を台無しにして、彼女らは男たちのもとへと向かう。
「……とりあえずふん縛って、トラックの後ろに繋いで置きますか」
「本当に西部劇馬引き摺りごっこをするのっ!?」
そしてどこから持ってきたのか、縄を取り出すシア。
「……こんなこともあろうかと、用意しておいた縄です」
「流石シアちゃんっ! 用意がいいね」
何の為に用意されたものであるかは、あえて考えないシノであった。
「……このSM小説と縛り大全から学び取った縛り方を参考に、縛っちゃいます」
「それ資料だよね、仕事の為の資料だよねっ!」
何の用途の為に用意されたものであるかは、あえて他の可能性を考えないシノであった。
「……縛ったのはいいのですが、これ、どうやって運び出しましょうか」
「引き摺るしかないよね……」
本当に、どっかのトラックに運んで行って貰った方がいいのかもしれない。
仕方がないので、二人でずるずると大の男を運ぶ。
しかし、体質こそ異質だが、筋力の類は見た目相応の彼女らだ。すぐにバテてしまう。
さて、ようやく男たちをアパートの外まで引っ張って行ったのだが、その辺りで二人は完全に座り込んでしまった。
時刻は既に夜中。運の悪いことに、今のところ誰も帰ってきていない。
「ねぇ、シア……」
「なぁに、お姉ちゃん……」
「どっか、トラック止まってないかな……」
「早速心が折れてますね」
いっそこの辺に放置しておいたら誰か片付けてくれるんじゃないか。そんな希望的な観測を妄想し始めた頃に、彼女はやってきた。
「……紅さんです」
「夢野ちんだぁっ!」
そう言って、双子はその女性に飛びついた。
「な、なによぉっ!」
「……キャラ付けは重要です」
妹のその唐突な台詞に、姉のシノは困惑した。
確かに、彼女らは双子という強烈な属性を持っていながらも、その属性を生かす特性を持ち合わせているとは言えなかった。テレパシーで繋がっているとか、ユニゾン攻撃ができるとか、そういった双子にありがちな特技特性を持ち合わせているわけではない。
「いや、私たち、十分にキャラ立ってると思うよ?」
だからといって、彼女らのキャラクター性が薄いかと問われれば、答えは否。彼女ら、仲の良さはオリガミつきで、例えば、「ツー」と言えば「カー」、「あ」と言えば「うん」。「萌え萌え」と言えば「きゅん☆」と返すぐらいの仲だ。そんな、周りがヒくほどのテンションと仲の良さで会話を行う彼女らのキャラが薄いと、誰が言えるだろうか。
「……見た目の問題です。見た目だけならそーとー地味かと思われます」
言われてみて、何となく納得するシノ。確かに、白と黒が入り混じったオセロカラーでは見る方も混乱する。
いっそ白い方が姉、黒い方が妹と覚えて貰えた方が分かり易くて良いのかも知れない。
――以上の会話が、彼女らが普段のオセロカラースタイルの衣服を完全に真っ白アンド真っ黒スタイルに統一してみた理由である。
さて、その外面的キャラ作りを試してみる為に、その辺をうろついて、アパートの住民を捕まえてみたのだが……。
「さみちゃん、きっと見た目より言動で見分けてたネ……」
試しにさみちゃんこと、晩生内さんのところの五月雨ちゃんで試してみたものの、どうやら彼女は二人を見た目で見分けているようには見えなかった。
いっそこれは双子として生まれた宿命と考え、二個で一個のキャラクターとして生きた方が楽なのかもしれない。
「まあ、その辺は追々考えるとしますか……そんなことより、ですよ」
そうだ、問題があった。
晩生内五月雨を捕まえた理由は、もう一つあった。
このアパートの大家はこちらが話さないことまで知っている節があり、更に微妙なところで口が軽い。
『そういえば、二〇一号室の部屋の子、五月雨さん。あの子の力をご存知でしょうか? 生きているもの、もしくは死んでいるモノすら殺す言葉の毒をお持ちのようなのです。それなら、例え生ける死体や不老不死のお方でも死ぬことができるのではないかと、私は思うのですが……貴方たちはどう思いますか?』
そう、まるで世間話のように口にした。
「何で知ってたんだろ……」
「……私達、話してないよね」
「きっと、偶然だよっ! あの人なりの世間話の類だよっ!」
「……そうですね。いくらなんでも、話してもないことをあの人が知っているわけがないのですっ!」
こちらは大家に自分らの事情を口にした覚えはないのだから、きっとそれは彼女なりの世間話のつもりなのだろう。姉妹は、自分らが口にしたつもりのない事情が彼女に洩れていないことを願い、そしてカマを掛けられた可能性もまた、見ないフリをした。
「……今回もハズレだったねぇ」
彼女らも時々忘れがちになるが、一応死ぬ方法を探している。
色々試してみたのだが、外的要因、内的要因で死ぬことはなかった。この体質は半ば魔法のような所業なので、理解はしていた。あと試してないのは魔術的要因、もしくは霊的要因の二つぐらいだろうか。
「大家さんはイケるって言ってたよね?」
「どうでしょうか。……もしかしたら大家さんの言っていることは間違えかも知れませんし、別の要因が合わさって初めて五月雨さんの力によって私達が死ぬのかもしれません。あるいは……」
「大家さん自体は答えを持っていなかったので、いっそ私たちを合わせてしまって答えを実証してしまうのが一番と考えたのか……」
まあ、こういうことは私達が考えても仕方ない。そう思いなおし、彼女らは考えるのを止めてしまう。大家の不気味な事情通っぷりに空寒いモノを感じたからではないことを、彼女たちの名誉の為にあえて書かせてもらおう。
「……まあ、急ぐ話でなし、人生も長いのですから……」
そうやって、問題をいつも先延ばしにしてしまう二人である。
そもそも、彼女らは死ぬことを目的としているが、生きていることもまた、目的の一つとして見ている。そして生きることは、死ぬための手段でもある。何より、たった一つしか提示されていない方法が潰れただけで落胆してしまうほど、彼女たちは悲観的でもない。
「色々行ってないところあるし……」
「テレビの続き気になりますし……」
というよりは、貪欲的でもある。割りと楽観的にこの状況を楽しんでいるところにも、彼女らがダラダラと死ぬ方法探しを先延ばしにしている理由がある。
二人してコタツの中で溜め息を付く。
「……長い人生だったねぇ」
これでは色々とダメなのではないかと思い、シノは先ほどまでの呟きをなかったことにする。コタツの中でダラダラとみかんの皮を剥いている時点で、もう手遅れだ。
「……まさかお金を借りてないのにヤクザの千本ノックの相手をするとは思いませんでした……」
主にドアとかお腹とか。
「……ヤクザで思い出しました」
「あ、これね」
そう言って、彼らの様子を見る。まだ起き上がる様子はないが、そろそろどうにかしないと目を覚ましかねない。
大柄な男が二人、白目を剥いて倒れている。死体のようにも見えるが、こう見えて生きている。
「汚い顔だろ……生きてるんだぜ……」
「……言うと思いました」
有名な名台詞を台無しにして、彼女らは男たちのもとへと向かう。
「……とりあえずふん縛って、トラックの後ろに繋いで置きますか」
「本当に西部劇馬引き摺りごっこをするのっ!?」
そしてどこから持ってきたのか、縄を取り出すシア。
「……こんなこともあろうかと、用意しておいた縄です」
「流石シアちゃんっ! 用意がいいね」
何の為に用意されたものであるかは、あえて考えないシノであった。
「……このSM小説と縛り大全から学び取った縛り方を参考に、縛っちゃいます」
「それ資料だよね、仕事の為の資料だよねっ!」
何の用途の為に用意されたものであるかは、あえて他の可能性を考えないシノであった。
「……縛ったのはいいのですが、これ、どうやって運び出しましょうか」
「引き摺るしかないよね……」
本当に、どっかのトラックに運んで行って貰った方がいいのかもしれない。
仕方がないので、二人でずるずると大の男を運ぶ。
しかし、体質こそ異質だが、筋力の類は見た目相応の彼女らだ。すぐにバテてしまう。
さて、ようやく男たちをアパートの外まで引っ張って行ったのだが、その辺りで二人は完全に座り込んでしまった。
時刻は既に夜中。運の悪いことに、今のところ誰も帰ってきていない。
「ねぇ、シア……」
「なぁに、お姉ちゃん……」
「どっか、トラック止まってないかな……」
「早速心が折れてますね」
いっそこの辺に放置しておいたら誰か片付けてくれるんじゃないか。そんな希望的な観測を妄想し始めた頃に、彼女はやってきた。
「……紅さんです」
「夢野ちんだぁっ!」
そう言って、双子はその女性に飛びついた。
「な、なによぉっ!」
作品名:Life and Death【そのに】 作家名:最中の中