舞うが如く 第七章 4~6
「いかが、なされましたか?」
振り返る琴の前に、
早くも目に涙を溜めたお下げ髪の娘が、
鼻にかけた甘い声で、精一杯に訴えてきました。
「それが・・・
どうあっても、5人で一部屋に入りたいということに相成りまして、
一部屋4人と言う、決まりごとの勘定に合いませぬ。
あちらを譲れば、こちらが譲れず
あちらを立てれば、こちらが立てず、
もう、どのようにしたら良いのか
皆目に、わからなってしまいました。
どのようにいたしましても、とうてい4人には削れませぬ。
いがいたしたもので、ありましょうか。」
「他愛もないことでありまする。
5人一緒に入室いたせば、それで収まりのつく話です。
無理に削れとは申しませぬが、
後ほどに、狭いなどと後悔だけはいたさぬように、ご随意のままに。
気のあったお仲間同士の、5人のままで
仲良く、お使いくださいまし。」
琴の助言に、
娘たちの表情は、いっぺんに晴れてしまいます。
「まさしく明快、ご明察。
さすがに、法神流の秘蔵の鬼娘。
見事なる一本にありまする。
さてさて、これは先が楽しみに相なりまする。」
廊下で、無邪気に喜び合う娘たちの様子を見据えてから、
ひと言うなずいた取締役が、にっこりと琴にほほ笑みます。
「では、後ほど」と軽く頭をさげると、コホンとひとつ咳ばらいをして、
自分の部屋へ消えてしまいました。
作品名:舞うが如く 第七章 4~6 作家名:落合順平