ゆびきり
三月の末になって、漸く菜奈は全快し、以前の職場に復帰したという。
土曜日の午後三時、家庭電器量販店の地下の売り場で待ち合わせすることになった。
映画のDVDを陳列する棚が何列も並んでいるところで逢うことにした。その理由は、駅の時計台付近は寒いからと、それだけの理由だった。
菜奈が風邪をひくと、また「病気」が再発しないとも限らない。中野はそう、想った。
約束の一時間前に、自転車に乗って中野は外出した。駅の向こう側の無料の駐輪場へ行った。ほぼ満車だということだったが、印象として如何にも人のいい老人が、駐輪場の中の空いている場所へ、中野を案内してくれた。老人はグレーの作業服を着ていた。まるで工場労働者と同じだった。八百台の自転車を収容できる駐輪場の、残っていた空きスペースは五台分だった。
DVDの売り場は駐輪場のすぐ近くだった。エレベーター横の扉から通路を少し歩くと、一気に様々な色彩が眼に飛び込んで来た。高精細の大型テレビがいくつもあり、最新のゲームのデモ画面が鮮やかで眼を惹く。時間があるので中野はゲームソフトやCDも見て回った。
着信した携帯を見た。
「少し早く着いたよ。あなたも早く来て!
時間がもったいないからね。
お昼は食べてないけど、最初は居酒屋がいいかな?
駄目だね。居酒屋は五時過ぎないと開いてないよね。 菜奈」