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【問:□に不等号をいれよ】おばけ□人間

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 夕焼けが綺麗な放課後のこと。
 公立牧代(まきよ)中学校の第二多目的室で、四人の男子生徒が一つの机で額をつきあわせ、ごそごそと何かやっている。
茶髪の桜井、金髪の金田、黒髪の黒沢、坊主の丸谷、の四人である。
四人ともひっきりなしにちらちらと、教室のドアを気にしながら、落ちつかない様子で声を交わしている。
桜井が金田に鼻息荒くたずねた。
「ねえ、あれ、あれだよ、あれ。ちゃんと持ってきた?」
金田も負けず劣らず呼吸が荒かった。
「おまえこそ持ってきたよな? バックレたらマジでコロスからな、マジでマジで」
 桜井も金田も、お互いの持っている紙袋を凝視し合っていた。紙袋越しの形状からうかがうに、何かしらの冊子のようである。
「二人とも、疑うより早く交換しなよ。ばれちゃうよ」
 黒沢が不機嫌そうに口を挟む。
「そうだ、早くしろ」
 丸谷もそう言って、桜井を急かす。
 桜井は心配そうに言った。
「で、でもさぉ、もしこいつがボクのことをダマそうとしてたら」
「いやいやいや、ないって。いっつも俺ら顔合わせてんじゃん。騙してどうすんの。絶交じゃんこいつがさ」
 と黒沢は金田を親指で示して、「そんな損することするわけないって」と続けた。
 金田は、チッ、と舌打ちをして自分の紙袋の口を開ける。
「カクニンすりゃーイィんだろ? ほら、おまえも見せろよ」
 桜井の顔はそれでも晴れなかった。
「で、でもさぉ……」
 チィッ、と金田はまた舌打ちをした。桜井の紙袋を強引に奪い、自分の紙袋を押しつける。桜井が、あっ、と言った時には、金田は奪った紙袋の中を確認していた。
「ケッ、ちゃんとオレが頼んだ洋モノじゃねーか。なにをビクビクしてんだよ」
 そう言われて、桜井も恐る恐る自分の手に持った紙袋の中身を見た。途端に桜井は笑顔になった。
「うん、そうだよね、あはは。ごめん!」
 黒沢が苦笑しながら桜井を見た。
「現金なやつ……」
「そーゆーヤツだろうが、コイツは」
 その時、丸谷が「やばい!」と声を押し殺して言った。桜井も金田も紙袋を足元のカバンに勢いよく突っこんで隠す。同時に教室のドアががらりと開いて、厳めしい顔をした教師が教室の中をのぞきこんだ。
「てめぇらか。今度は何してた……?」 
 黒沢が苦笑いしながら答える。
「今度、どこで遊ぼうか話していたところですよ。純真な生徒を疑うなんてひどいなぁ。ピグマリオン効果って知ってますか、センセイ?」
 教師は黒沢の軽口を無視した。そして彼らの足元にあるカバンと、そこからはみ出ている紙袋に目を止めると、フン、と鼻をならした。
「その中身はなんだ?」
 桜井が、やべっ、と呟いて紙袋をカバンの中に見えなくなるように隠す。すると金田、黒沢、丸谷の三人は、ばかっ! と叫んで各々のカバンをひっつかみ、いっせいに駆けだした。
「まてこらぁ!」
 教師が怒鳴る。しかしそれが自分にだけは関係ないとでも言いたげな顔つきで、黒沢はベランダへ、金田と丸谷は教師の入って来たドアとは別のドアへと走り寄った。教師がどっちを追うか迷っている間に、黒沢はベランダ伝いに二つ隣の教室から、金田と丸谷は廊下へ逃げ出して行った。
 教師は頭をかきながら桜井を見た。
「桜井。職員室に来い」
「はい……」
 茶髪の桜井は、しょんぼりしながら頷いた。

 職員室で「交換し合っていたもの(思春期男子特有の青春の全てをかけて手を伸ばす聖書とも形容される写真がいっぱいの大人が独り占めして警察が目を光らせて思春期男子が手に取らないように取り締まったりする類の金田と交換し合った至宝とも呼べる雑誌)」を取り上げられ、こってりしぼられた桜井は、うまく逃げおおせた三人を恨めしく思いながら帰路についていた。吹く北風が尚更身に堪える。陽はもう山の向こうに沈もうとしていて、夜の帳が降り始めていた。
「ずるいよなぁ。結局ボクだけ損しちゃったじゃないか。なんで助けにも来ないんだ。友だちじゃないか」
 黒沢、金田、丸谷の顔を思い浮かべる。なんだか彼らが自分をあざわらっている気がする。はめられたのか。許せない。復讐したい。こらしめたい。でも、どうすればいいんだろう?
「うらめしいのですか?」
 桜井はそう問いかけた人物に目を向けた。微笑する女性だった。
「え?」
 三十代後半だろうか。どこにでもいるおばさんのような女性である。その人は、桜井の横にある電柱の陰から顔だけを出していた。電柱とその後ろにあるフェンスの間には、人の入れる空間などないはずなのに。
桜井は人に会った時のくせでとりあえず会釈をした。その人も会釈を返した。
「うらめしいのですか?」
 その人はまた問いかけてきた。桜井は、おばけだ、と思いながら、しかしパニックになることなく言った。
「でも、どうすればいいか分からない」
「呪えばいいと思います」
「どうやって?」
「まず、藁人形を用意します」
「どこで買うの?」
 女性はきょとんとして桜井を見た。
「作るに決まっているじゃないですか」
「……どうやって?」
「作り方が、分からない?」
「うん」
 う~ん、と女性は眉間にしわを寄せた。小さくではあったが、これだから最近の若者は、と呟くのが聞こえた。しかし一方の桜井は、全く怖くないこのおばけを見て、最近のおばけは呪力が弱そうだ、と思った。
「では、ここに書かれている住所までおいでください。そこの人が、きっと藁人形をくださるでしょう」
 おばけはそう言って、紙きれを桜井に手渡した。桜井は紙きれを受け取る時、女性の手に軽く触れた。少し触れただけなのに、冬の風に負けず劣らず冷たかった。
「来なかったら、呪いますよ」
 女性はニコッと笑って電柱の陰にひっこんだ。
 桜井は女性に触れた手をポケットで温めながら、紙きれに書かれた文字を読む。無意識に、えっ、と声が出た。
「これって……まさか……」

 書かれていた住所は、桜井が良く知る人物の住んでいる家と同じ住所だった。ひと昔の日本家屋風の家。表札には黒沢と書いてあり、桜井はやはり彼の家だと確信した。
インターホンを鳴らす。
『へぇーい、どちらさまー?』
 少し気だるい声で同年代の声が聞こえてくる。
「ボクだけど……」
『ボクボク詐欺? 警察呼んじゃうよ?』
「桜井だよ!」
『はっはっは、分かってるって。カメラで見えるし』
 桜井が苛立ちをつのらせる中、玄関の戸が開いた。出て来た人物は桜井に声をかけた。
「センセイの鎌かけなんかにかかんなよ。桜井はトロいなあ」
 黒髪の黒沢である。
「で、何の用? 没収されたの弁償しろなんて言うなよ?」
 桜井は首を横に振り、半信半疑ながら要件を告げた。
「藁人形、くれる?」
 はあ? と黒沢は首をかしげた。
「しぼられすぎて頭どうにかしちゃったの?」
 桜井は持っていた紙きれを黒沢に見せる。
「女のおばけに紹介されたんだけど……」
 黒沢が目の色を変えた。桜井の腕をつかみ、家の中に引きずり込む。戸を固くしめ、鍵をかけた。
「しゃべるな。頼むから、しゃべるな。とりあえず、家に上がれ。居間は知ってんだろ。そこで待ってろ」
 黒沢はそう言って、ドタドタ音を立てながら家の奥に消えて行った。