「初体験・北海道旅行編」 第二話(最終回)
第二話(最終回)
「俺達って生きているって実感させられたな・・・なんと言うか、大地とつながっているという想いがするんだ」
伊藤がそう口を開いた。
「伊藤!一緒だな・・・みんな友達だって感じる。小さい事でくよくよなんかしなくてもいいって感じた」
高城がそう続く。
「雄介、お前は何を考えている?」
塚本の質問にゆっくりとした口調で答えを言った。
「塚本、俺はオーナーさんが話してくれた今日の日を忘れずに出逢ったすべての人との縁を大切にしてください、と言った言葉が沁みたよ。何気なく過ごしてしまう毎日から、大切な出逢いを見失ってしまわないように心がけたいって思っている」
「ふ~ん、そんな事考えたんだ・・・出会いって女も含めてだよな?」
「克弘!いいムードで話しているのに下品だぞ」
「怒るなって・・・もう寝るよ、朝早いし・・・」
雄介は伊藤と高城の顔色を窺うようにして自分もベッドに入った。4人部屋には二段ベッドが二つ入っていた。先に階段を上がって上で寝ていた塚本の下で雄介は寝た。
ここでの二日目はオホーツク海で泳ぐと言う無謀な試みだった。波も荒く風も強く吹いていたのでとても泳げるコンディションではなかったが雄介は水着に着替えて海に入った。夏とはいえ肌を刺すような冷たさに全身鳥肌になったがゆっくりと泳ぎ始めた。残りの三人はとても自信が無かったから見ているだけだった。
ホステルに戻ってきて着替えた雄介にオーナーは、
「良く泳いだね、地元の人だって泳がないんだよ。冷たかったろう?好きなのかい泳ぐのが?」
と呆れ顔で言った。
「いえ、是非記念にと泳いだだけです。いい思い出になりました・・・もう二度としないでしょうから」
「そんな風に感じられるんだったら、それも良かったのかも知れないね。コーヒー入れるから飲むかい?温かいやつ?」
「本当ですか?ぜひ下さい。大好きなんです。自分でもサイフォンとかドリップで家で淹れて飲んでいるんです」
「高校生なのに感心だね、そうかい。じゃあ何が飲みたい?一通り豆は揃っているよ」
「モカとコロムビアを半々で混ぜたものが好きです」
「解った、待ってて・・・」
オーナーはガラス戸を開けてビンから豆を取り出してミルにいれ、挽いてドリップ式で点ててくれた。
「いただきます!」
とってもいい香りが部屋に立ちこめて少し冷えた身体を温めてくれた。
「美味しいです!柔らかいですね・・・水が違うのかなあ。大阪は水道がよくないからあらかじめ汲んでおいてカルキ飛ばさないと飲めないんですよ。羨ましいです」
「そうだね、水に関してはここら辺は豊だね。井戸水が十分に出るからね。海の幸も美味しいし・・・食に関しては言うこと無いけど冬場は何度経験しても厳しいね・・・それさえなければ、本当に天国に近いって思えるんだけど」
「天国ですか・・・まだ行きたくありませんが、こんな感じなんですか?」
「たとえだよたとえ・・・おかしいなあ、君は純粋なんだね。女性にもてるだろう?」
「えっ?・・・そんな事ないです」
「俺の推測じゃ・・・そうは見えないぞ。これでも若い頃は札幌で遊んだからな、わかるんだよ」
「もてると言うより、女性に誘われる事が多いです。誘惑に負けてしまうから自分が情けないです」
「やっぱりな。そういうのを女難の相が出ているって言うんだよ。気をつけた方がいいよ、優しさは時に罪を作るから」
「はい、そのとおりだと思います」
「さすがだ!経験者は語るってか?末恐ろしいなあ、高校生から理解しているなんて・・・」
「なんだか褒められているのか、けなされているのか解りませんね」
「いや、褒めているんだよ・・・またここに来ることがあったら泊まらなくてもいいから寄ってくれ。夏場は大抵いるから」
「ありがとうございます。絶対に寄らせて頂きます。後で住所写して帰ります」
「そうしてくれ、年賀状出すから」
「はい」
二度目に北海道を訪れた雄介はオーナーと再会する事はなかった。ユースホステル自体が無くなってしまったからである。
原生花園を後にして、釧路から襟裳岬まで行き今は無い、様似線に乗って愛国、幸福駅を通過して再び札幌まで戻ってきた。
函館まで乗り継いで青函連絡船で青森まで戻り、今度は弘前から秋田方面へと向った。
次の宿泊先は直江津から少し先の鯨波にあるお寺「妙智寺(みょうちじ)」だった。海岸線は見渡す限り砂浜になっており地元の家族連れや子供達で賑っていた。ここでちょっとした事件が起きる。
広いお寺の畳の間を開放して民宿にしていたのだが、間仕切りが衝立だけという質素なもので女性客のプライベートは信頼に守られると言う約束であった。
雄介たち4人と他に女性客3人だけが泊まっていた。一通り挨拶をして歓談していたが、雄介は泳ぎたいからと1人で海岸に出て行った。
しばらくして戻ってきて、着替えを兼ねて風呂場に行き扉を開けた。
「きゃあ~」そう叫ばれた。
先に女性客が入っていたのだ。
「すみません!」慌てて、飛び出した。風呂場の入り口に使用中の札がかかっていた事を後で知った。
着替えて出てきた女性のグループに雄介は頭を下げて謝った。恥ずかしい姿を見られたことでかなり気分を害していたが、雄介の優しい顔立ちと物言いで許す気分に変わっていた。交代して風呂に入った雄介はさっき見た1人の女性の裸を思い出していた。
顔立ちは大学生のように見えたが身体はすっかり大人だったように感じられた。それは香奈枝と通じる部分があったからだ。
最初の歓談の時に年の話が出たが笑ってごまかされた。雄介たちが高校三年生だと知って言いにくくなったのであろう。
彼女たち3人は銀行のOLだった。夏期休暇を利用して十和田湖に行く途中に立ち寄っていた。明日は雄介たちも大阪に戻るから今夜が最後の宿泊となる。名残惜しさから夜遅くまでみんなで話をしていた。
特に仲良くなった千代子と雄介は話しこんでいた。
「千代子さん何か趣味されているの?」
「そうね・・・こうして休みに旅行する事が趣味だけど会社では卓球部に入っているの」
「卓球?そう見えないけど・・・上手いんだ?」
「遊び程度だからたいしたことはないの。雄介さんはしたことがある?」
「中学一年のときに卓球部に入っていたんだけど、先輩が暴力事件を起こして休部になってしまったから辞めちゃったよ」
「そうなの?じゃあ少しは出来るのね?」
「最近してないから・・・どうかなあ」
「ねえ?帰ったら一度やらない?」
「いいよ。じゃあ電話して」
「必ずよ・・・電話するから」
「うん」
このときはする事なんかないだろうと思って簡単に返事をした雄介だったが、家に帰ってから一週間ほどしてから千代子から電話が掛かってきた。
「雄介!電話よ。田中さんという人から」
「田中?・・・もしもし代わりました雄介です」
「ゴメンなさいね電話して・・・お母さん良かったかしら、変に思われてないかしら?」
「千代子さん!大丈夫だよ。十和田湖はどうだった?」
「うん良かったよ。奥入瀬もきれいだったし・・・ねえ約束覚えている?卓球の事」
「覚えてるよ」
「今度の日曜日とか忙しい?」
「俺達って生きているって実感させられたな・・・なんと言うか、大地とつながっているという想いがするんだ」
伊藤がそう口を開いた。
「伊藤!一緒だな・・・みんな友達だって感じる。小さい事でくよくよなんかしなくてもいいって感じた」
高城がそう続く。
「雄介、お前は何を考えている?」
塚本の質問にゆっくりとした口調で答えを言った。
「塚本、俺はオーナーさんが話してくれた今日の日を忘れずに出逢ったすべての人との縁を大切にしてください、と言った言葉が沁みたよ。何気なく過ごしてしまう毎日から、大切な出逢いを見失ってしまわないように心がけたいって思っている」
「ふ~ん、そんな事考えたんだ・・・出会いって女も含めてだよな?」
「克弘!いいムードで話しているのに下品だぞ」
「怒るなって・・・もう寝るよ、朝早いし・・・」
雄介は伊藤と高城の顔色を窺うようにして自分もベッドに入った。4人部屋には二段ベッドが二つ入っていた。先に階段を上がって上で寝ていた塚本の下で雄介は寝た。
ここでの二日目はオホーツク海で泳ぐと言う無謀な試みだった。波も荒く風も強く吹いていたのでとても泳げるコンディションではなかったが雄介は水着に着替えて海に入った。夏とはいえ肌を刺すような冷たさに全身鳥肌になったがゆっくりと泳ぎ始めた。残りの三人はとても自信が無かったから見ているだけだった。
ホステルに戻ってきて着替えた雄介にオーナーは、
「良く泳いだね、地元の人だって泳がないんだよ。冷たかったろう?好きなのかい泳ぐのが?」
と呆れ顔で言った。
「いえ、是非記念にと泳いだだけです。いい思い出になりました・・・もう二度としないでしょうから」
「そんな風に感じられるんだったら、それも良かったのかも知れないね。コーヒー入れるから飲むかい?温かいやつ?」
「本当ですか?ぜひ下さい。大好きなんです。自分でもサイフォンとかドリップで家で淹れて飲んでいるんです」
「高校生なのに感心だね、そうかい。じゃあ何が飲みたい?一通り豆は揃っているよ」
「モカとコロムビアを半々で混ぜたものが好きです」
「解った、待ってて・・・」
オーナーはガラス戸を開けてビンから豆を取り出してミルにいれ、挽いてドリップ式で点ててくれた。
「いただきます!」
とってもいい香りが部屋に立ちこめて少し冷えた身体を温めてくれた。
「美味しいです!柔らかいですね・・・水が違うのかなあ。大阪は水道がよくないからあらかじめ汲んでおいてカルキ飛ばさないと飲めないんですよ。羨ましいです」
「そうだね、水に関してはここら辺は豊だね。井戸水が十分に出るからね。海の幸も美味しいし・・・食に関しては言うこと無いけど冬場は何度経験しても厳しいね・・・それさえなければ、本当に天国に近いって思えるんだけど」
「天国ですか・・・まだ行きたくありませんが、こんな感じなんですか?」
「たとえだよたとえ・・・おかしいなあ、君は純粋なんだね。女性にもてるだろう?」
「えっ?・・・そんな事ないです」
「俺の推測じゃ・・・そうは見えないぞ。これでも若い頃は札幌で遊んだからな、わかるんだよ」
「もてると言うより、女性に誘われる事が多いです。誘惑に負けてしまうから自分が情けないです」
「やっぱりな。そういうのを女難の相が出ているって言うんだよ。気をつけた方がいいよ、優しさは時に罪を作るから」
「はい、そのとおりだと思います」
「さすがだ!経験者は語るってか?末恐ろしいなあ、高校生から理解しているなんて・・・」
「なんだか褒められているのか、けなされているのか解りませんね」
「いや、褒めているんだよ・・・またここに来ることがあったら泊まらなくてもいいから寄ってくれ。夏場は大抵いるから」
「ありがとうございます。絶対に寄らせて頂きます。後で住所写して帰ります」
「そうしてくれ、年賀状出すから」
「はい」
二度目に北海道を訪れた雄介はオーナーと再会する事はなかった。ユースホステル自体が無くなってしまったからである。
原生花園を後にして、釧路から襟裳岬まで行き今は無い、様似線に乗って愛国、幸福駅を通過して再び札幌まで戻ってきた。
函館まで乗り継いで青函連絡船で青森まで戻り、今度は弘前から秋田方面へと向った。
次の宿泊先は直江津から少し先の鯨波にあるお寺「妙智寺(みょうちじ)」だった。海岸線は見渡す限り砂浜になっており地元の家族連れや子供達で賑っていた。ここでちょっとした事件が起きる。
広いお寺の畳の間を開放して民宿にしていたのだが、間仕切りが衝立だけという質素なもので女性客のプライベートは信頼に守られると言う約束であった。
雄介たち4人と他に女性客3人だけが泊まっていた。一通り挨拶をして歓談していたが、雄介は泳ぎたいからと1人で海岸に出て行った。
しばらくして戻ってきて、着替えを兼ねて風呂場に行き扉を開けた。
「きゃあ~」そう叫ばれた。
先に女性客が入っていたのだ。
「すみません!」慌てて、飛び出した。風呂場の入り口に使用中の札がかかっていた事を後で知った。
着替えて出てきた女性のグループに雄介は頭を下げて謝った。恥ずかしい姿を見られたことでかなり気分を害していたが、雄介の優しい顔立ちと物言いで許す気分に変わっていた。交代して風呂に入った雄介はさっき見た1人の女性の裸を思い出していた。
顔立ちは大学生のように見えたが身体はすっかり大人だったように感じられた。それは香奈枝と通じる部分があったからだ。
最初の歓談の時に年の話が出たが笑ってごまかされた。雄介たちが高校三年生だと知って言いにくくなったのであろう。
彼女たち3人は銀行のOLだった。夏期休暇を利用して十和田湖に行く途中に立ち寄っていた。明日は雄介たちも大阪に戻るから今夜が最後の宿泊となる。名残惜しさから夜遅くまでみんなで話をしていた。
特に仲良くなった千代子と雄介は話しこんでいた。
「千代子さん何か趣味されているの?」
「そうね・・・こうして休みに旅行する事が趣味だけど会社では卓球部に入っているの」
「卓球?そう見えないけど・・・上手いんだ?」
「遊び程度だからたいしたことはないの。雄介さんはしたことがある?」
「中学一年のときに卓球部に入っていたんだけど、先輩が暴力事件を起こして休部になってしまったから辞めちゃったよ」
「そうなの?じゃあ少しは出来るのね?」
「最近してないから・・・どうかなあ」
「ねえ?帰ったら一度やらない?」
「いいよ。じゃあ電話して」
「必ずよ・・・電話するから」
「うん」
このときはする事なんかないだろうと思って簡単に返事をした雄介だったが、家に帰ってから一週間ほどしてから千代子から電話が掛かってきた。
「雄介!電話よ。田中さんという人から」
「田中?・・・もしもし代わりました雄介です」
「ゴメンなさいね電話して・・・お母さん良かったかしら、変に思われてないかしら?」
「千代子さん!大丈夫だよ。十和田湖はどうだった?」
「うん良かったよ。奥入瀬もきれいだったし・・・ねえ約束覚えている?卓球の事」
「覚えてるよ」
「今度の日曜日とか忙しい?」
作品名:「初体験・北海道旅行編」 第二話(最終回) 作家名:てっしゅう