出逢い
2011/01/14更新
「一年二組、海老原大助です」
十四歳の春。俺は母さんと二人で桜川の町に引っ越して来た。母さんの実家に来るのはこの時が初めてだった。今は誰も住んでいない空き家を二人で掃除して、静かに新しい生活を始める事になるなんて思いもしなかった。
「うちの学校ではどこかのクラブに所属してもらうことになるけど。君、小学校で野球やってたんだって?」
転校先の中学校の二階校舎から見える景色に息が詰まりそうになる。ここには何も通い合うものがない。
「野球部のグランドは、あそこの正門を、」
「野球は……もういいです」
懐かしい、綺麗な思い出ばかりが頭の中に残っている。
転校生はすぐ噂される。名前とか顔とか、みんな誰しも持っているものなのに新しいとこうも珍しがられる。放課後クラブ活動を見学しながら校舎やグランドをぐるぐる回っていると色んな視線が飛んできた。
着慣れない学ランの袖は窮屈でだった。音楽室の奥に昇降口を見つけた俺は、ボタンを外しながら階段を上り、ドアを開けた。
母さんがこのまま一人息子に関心を持たずに、俺が育ってしまったらどんな大人になるのだろうと想像してみる。一人で何でも出来てしまう秀才、あるいは根暗。いずれにせよ未来は重苦しい雰囲気に満ちている。
「おっと、先客がいるぜ」
自分を待ち受ける今後に期待が持てず、屋上のフェンスにもたれてシャツ一枚の開放感に浸っていると、二人の生徒が声をかけて来た。
「お前、もしかして転校生だな?」
見るからにちゃらちゃらしている金髪頭のそいつは俺の肩を掴むと勝手にペラペラ自己紹介してきた。
「一つ教えてやろう、どうしてお前がそんなに注目されてるのか」
やんちゃな先輩には関わるまいとする転校生を引き戻し、俺の頭髪を掴む。
「そんな頭をしてたら誰だって噂するさ」
もう一人の二枚目男が離してやれと手をはね除けてくれた。この少し滑稽な髪型のせいなのか、当たり前すぎて気付かなかった。
「まぁ逃げんじゃねーよ新入り、ここを凧上げ部の部室と知って来たんだろう?歓迎するぜ」
そいつはケタケタ笑う。
「……凧上げ部?」
俺はこうして凧上げ部部長秋本正也、副部長須賀俊一なる二年生の二人組と出会った。
「一年二組、海老原大助です」
十四歳の春。俺は母さんと二人で桜川の町に引っ越して来た。母さんの実家に来るのはこの時が初めてだった。今は誰も住んでいない空き家を二人で掃除して、静かに新しい生活を始める事になるなんて思いもしなかった。
「うちの学校ではどこかのクラブに所属してもらうことになるけど。君、小学校で野球やってたんだって?」
転校先の中学校の二階校舎から見える景色に息が詰まりそうになる。ここには何も通い合うものがない。
「野球部のグランドは、あそこの正門を、」
「野球は……もういいです」
懐かしい、綺麗な思い出ばかりが頭の中に残っている。
転校生はすぐ噂される。名前とか顔とか、みんな誰しも持っているものなのに新しいとこうも珍しがられる。放課後クラブ活動を見学しながら校舎やグランドをぐるぐる回っていると色んな視線が飛んできた。
着慣れない学ランの袖は窮屈でだった。音楽室の奥に昇降口を見つけた俺は、ボタンを外しながら階段を上り、ドアを開けた。
母さんがこのまま一人息子に関心を持たずに、俺が育ってしまったらどんな大人になるのだろうと想像してみる。一人で何でも出来てしまう秀才、あるいは根暗。いずれにせよ未来は重苦しい雰囲気に満ちている。
「おっと、先客がいるぜ」
自分を待ち受ける今後に期待が持てず、屋上のフェンスにもたれてシャツ一枚の開放感に浸っていると、二人の生徒が声をかけて来た。
「お前、もしかして転校生だな?」
見るからにちゃらちゃらしている金髪頭のそいつは俺の肩を掴むと勝手にペラペラ自己紹介してきた。
「一つ教えてやろう、どうしてお前がそんなに注目されてるのか」
やんちゃな先輩には関わるまいとする転校生を引き戻し、俺の頭髪を掴む。
「そんな頭をしてたら誰だって噂するさ」
もう一人の二枚目男が離してやれと手をはね除けてくれた。この少し滑稽な髪型のせいなのか、当たり前すぎて気付かなかった。
「まぁ逃げんじゃねーよ新入り、ここを凧上げ部の部室と知って来たんだろう?歓迎するぜ」
そいつはケタケタ笑う。
「……凧上げ部?」
俺はこうして凧上げ部部長秋本正也、副部長須賀俊一なる二年生の二人組と出会った。