舞うが如く 第七章 1~3
安中の宿では、
似たような身の上話が延々と繰り返されています。
明日の朝も、早い出発という段取りが知らされて、
ようやく、全員がそのまま雑魚寝の形で就寝をしました。
翌日の道中は、安中宿より富岡へ抜ける3里余りの山道でした。
20名の子女たちは思い思いに群れとなり、
前日よりは元気を取り戻した様子で、不平も言わずに歩きはじめます。
やがて、行く手の桑畑のうねりの先に、
ひときわ高くそびえる、大きな煙突が見えてきました。
一行からは、思わず歓声があがります。
この当時の富岡は、
城下というにはあまりにも閑静すぎて、町の様子を見てとると、
見渡す限りに桑畑がただただ続いているというばかりでした。
閑散としすぎていて、錆びれた景色ばかりが
延々と続くばかりの寒村の佇まいでした。
しかしその真ん中に、忽然と
赤れんが造りの巨大な建物が現れて、高くそびえる煙突は、
工場の屋根群とともに、燦然とその輝やきをはなっています。
完成してからまだ2年余り。
前橋から派遣された女子20名と琴は、日本で最初に誕生した
大規模な製糸工場、富岡製糸場を初めて目のあたりにしました。
作品名:舞うが如く 第七章 1~3 作家名:落合順平