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でんでろ3
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時速100キロの迷子

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ああー、高速道路デビューが、いきなり夜の首都高とはなー。不安だなー。
 しっかぁーしっ、私には、新兵器がある。だから、平気。なんちゃって。寒い冗談はさておいて、私の新兵器は、今日、取り付けたばかりの最新式のカーナビさっ。こいつが、有れば千人力。大船どころか、黒船に乗ったペリーくらい安心だぜっ。
 さて、しゅっぱーつ。

「カーナビ君、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします。マイケル」
「わっ、なんだ? このカーナビ返事するの?」
「返事だけではありません。マイケル。最新式AI搭載で、旅のお供として、会話を楽しんで頂けます」
「えーっ! すっげ! 凄過ぎ! 科学の進歩スゲっ」
「喜んで頂けて光栄です。ですが、マイケル。私の名前は『カーナビ』ではありません。『キット』とお呼び下さい」
「いや、それを言うなら、俺だって賢治だよ。彫りも深くねぇし、日本人にしか見えないよ」
「仕様ですので、しようがありません。我慢して下さい」
「で、何でお前は『キット』なの? まさか、ナイト・インダストリー・トゥー・サウザンドの略だとか?」
「いや、きっと、憶測で物を言うからでしょう」
「ちょっと待て。色々と聞き捨てならんな。『キット』って、その『きっと』なの? それから、憶測で物しゃべるって何? コンピュータにあるまじき行為でしょ」
「そう、今までのコンピュータには、決して成し得なかった憶測機能を搭載した初のコンピュータが、私です」
「何、自慢げに言ってんだよっ! 俺は、けなしてるのっ。カーナビが『たぶんこの道を行くと、あの道につながっているでしょう』とか、ダメでしょ。違ってたらどうすんの?」
「まぁまぁ、旅の恥はかき捨てと言いますし……」
「いや、それ、使い方、間違ってるから。ことわざは、用法用量を守って正しく使って下さい」
「大丈夫。任せて。普段は『さぁ』とか『きっと』とか言ってるのに、やるときは、きっちりやるから、『さぁきっとの狼』とか言って恐れられてるんだから」
「アラフォー以上じゃないと分からないジョークはやめろっ!」
「首都高速道路入口です」
「……突如、カーナビらしいこと言い出すな」
「もうすぐ料金所です」
「はいはい」
「踏み倒さないで下さい」
「するかっ! ボケっ! ETC付きじゃっ!」
「カード、刺さってませんよ」
「早く言え! ってか、なぜ分かる? ってか、ETC専用レーンに入っちゃった」

 慌てて後ろを見ると、折悪しく1台の車が入ってくる。急いでハザードランプをつけると、ものすごい顔で睨まれて、けたたましくクラクションを鳴らされた。

「くそっ、こんな時、バックモニターがあればなぁ」
「バックモニターはございませんが、私が音声で誘導することはできます」
「えっ、そんなこと出来るの? やって、やって」
「では、オーライ、オーライ、オーライ、……あっ」
「『あっ』って何? 何があった?」
「いやいや、なんでもありません。言ってみただけ。テヘペロ」
「……今度やったら、集積回路の足、1本残らず、へし折るぞ」
「あぃあぃさー。ハンドルを大きく切って、前進して下さい」
「それはそうと、さっき、ETCにカードが刺さってないの、なんで分かったんだ?」
「それは、私の神経根が、じわりじわりとこの車に張り巡らされつつあるのですよ」
「不気味なことを言うなっ! ってか、それマジなのか?」
「さぁてねー? 憶測かもよ?」
「今のイラッと来たんですけど。電源切ってやる」
「走行中は危険防止のため一切の操作を受け付けないようになっております」
「なにーっ! くそっ、電源はシガーライターから取るようにすれば良かった」

 しばらくぶりに、束の間の静寂が訪れた。本当に、束の間だったけど。

「右でした」
「ちょっと待て! 『でした』って、何だ?」
「いや、うっかり寝過ごしました」
「え、お前、寝るの? じゃなくて、貴様それでもカーナビか?」
「電気羊の夢を見ておりました」
「へー、夢も見るんだ。って、そうじゃねぇー! ちゃんと仕事をしろ!」
「では、オートリルートします」

 しかし、そう言ったきり、カーナビは何も言わなくなった。その間にも車は時速100キロで走り続ける。

「いえ、『カーナビ』じゃなくて『キット』です」
「他人の思考を読むなー!」
「いや、そこのところだけは、はっきりしておきませんと……」
「じゃなくて、君、今、明らかに俺の思考を読んだよね」
「いや、そうじゃないかなーって、憶測ですよ。憶測」

不気味な奴だ。

「嫌だなぁ。不気味だなんて」
「やっぱり、お前、思考読んでるじゃねーか」
「オートリルートの結果です」
「遅いよ」
「ワクワク首都高一周コースっ!」
「はっ?」
「いや、だから、ワクワク首都高一周コースっ!」
「えーっと、もはや、『ワクワク』にツッコむのは止めて。何? 首都高一周するの?」
「いや、東京の一般道って良く分からなくて……」
「貴様、それでも、カーナビかっ?」
「左です」
「うぉっとーっ! 遅いよ! 予告も無しかよ!」
「いやぁ、話が弾んでましたからねぇ」
「弾んでねぇよ。って言うか、百歩譲って弾んでたとしても、それじゃ、本末転倒だろ」
「上手いこと言うねぇ」
「上手くねぇよ。って言うか、本当に首都高一周するのか?」
「お暇でしたら、このように前の車にパッシングして……、さぁっ、熱いバトルの始まりだぜ!」
「うわっ、お前、何、勝手なことしてんだよ」
「運転代わります。さぁ、とばすぜぇーっ!」
「たーすーけーてー」

 その日、俺は、流星になった。