夏色のひみつ
七時を告げるチャイムが鳴った。この町は三方が山に囲まれているので、音がこだまして少し耳障りだ。
夜明け前に浜に行ったおじいちゃんとおばあちゃんが帰ってきた。エビ網漁が終わったんだ。
今日はたくさんとれたのかな……。
そう思いながら横になったままでいたら、眠気がしてうつらうつらしてきた。
「まゆ。具合はどうだい? 味噌汁くらい飲めるかい? 海老を入れたよ」
そうっとおばあちゃんがふすまを開けた。でも、眠気の方が勝っていたので、声をかけられても返事ができなかった。せっかく海老の入ったおみそ汁を作ってくれたのに。
お昼近くになって、目が覚めた。朝よりも元気になった気がする。
起きあがると少しふらふらしたけど、おばあちゃんのいる茶の間に行った。
「おや、まゆ。起きられるのかい?」
「うん。ごめんね。おばあちゃん。心配かけちゃって」
「みんな、夏休みの初めはそうだったよ。うれしくて一日中海で遊んで、夜になると熱を出したもんだ」
「そうなの? お母さんも?」
「ああ、まゆのお母さんはしょっちゅうだったよ。夏海の方はあんまり泳がなかったね」
「そうなんだ」
お母さんたら、それなのになっちゃんにお説教したんだ。帰ったら言ってやろうっと。
なっちゃんが出勤前に作ってくれたお粥と海老のおみそ汁を温めてもらって食べた。
「うわあ、いきかえったぁ」
「まあ、大げさだねえ」
おばあちゃんはおかしそうに笑った。
「だって、ほんとうよ。美味しいから生き返っちゃう」
「うれしいこと言うねえ、まゆは」
おばあちゃんはうれしそうにニコニコしている。
「今までなんで来なかったのかしら。おばあちゃんちってこんなに楽しいのに。ねえ、おばあちゃん、お母さんたらいじわるよね」
わたしはいままで夏休みに来なかったことがちょっぴり悔しくなった。でも、わたしのその何気ない一言で、それまでニコニコしていたおばあちゃんの顔が一瞬こわばった。
「おばあちゃん?」
わたしはなにかおばあちゃんに悪いことを言ってしまったのかしら。急に気まずくなって、わたしは唇をキュッとかんだ。
「あ、ごめんよ。なんでもないよ。春海にも都合があるからね。いじわるで来なかったんじゃないよ」
おばあちゃんはすぐに何事もないような顔つきになった。
「そうそう、今朝ね。裏山の畑からトウモロコシをとってきたんだった。早くゆでないといけないよ」
まるでその場の雰囲気をとりつくろうみたいに、おばあちゃんは台所に立った。