白の枯れ園と揺れる僕ら。
秋に、西篠先輩が先生に呼び出されて怒られたことがあった。
確か、10月。
言うことをきかない奴らに片端から殴ったり、蹴ったり。
大半は本気じゃないのも分かったけど、日に日にエスカレートしていった。
そんなある日、悠斗がふざけていた。
そこでは、怒らない。
すこし、語気を強めて叱るだけ。
だが、それで懲りてくれなかった。
ついに悠斗は更衣室で漫画を読み、挙句人の竹刀をふざけて壊した。
西篠先輩は悠斗を“叩いた”。勿論本気で叩いたのでは、ない。
それでもか細い悠斗の体は床に崩れた。
悠斗は先輩に向かって謝るのではなく、
「ふざけるな」といった。
そこで完全に西篠先輩の堪忍袋は切れた。
悠斗を壁まで追いつめ、細い悠斗の首を西篠先輩の手が圧縮した。
赤くなっていく悠斗の顔。
今までの虚栄はどこへやら、悠斗は掠れた声狭まった喉からを絞り出す。
「すみません。許してください」とそう言おうとしたのだろう。
声はでない。
その時、更衣室にはその2人しかいなかった。
西篠先輩の顔も憤怒で赤く染まる。
そこに来たのは、なかなか稽古に戻らない2人の様子を見にきた迅。
大声で西篠先輩を制止しようとする。
その声は届かない。
その声に駆けつける部員全員。
こんな時に限って平日は忙しい先生方はいない。
西篠先輩を笠間と山神先輩の二人掛かりで引きはがす。
勢いで床に倒れこむ、三人。
咳き込みながら床に倒れこむ悠斗を迅が慌てて支えて床に座らせる。
咳き込みながら悠斗は叫ぶ。
悠斗が放った言葉は謝罪ではなかった。
「そんなこと、部長がしていいのかよッ。」
西篠先輩の眼が見開かれる。拳を握り締め、悠斗へ飛び突こうとする。
笠間がタックルみたいにして自分と一緒に西篠先輩を倒す。
小西が西篠先輩が頭を打たないように支える。
山神先輩が暴れる西篠先輩を柔道の技で固める。
悠斗に激怒する細谷。
胸ぐらをつかもうとする迅。それを止めようとする御崎。
壊れて、危険物となったまま、放置されていた竹刀を
二次災害にならぬよう慌てて回収する多井先輩と横山先輩。
西篠先輩をなだめようと声をかける古知屋先輩。
悠斗が倒れた衝撃で散乱した木刀を回収する沖名先輩。
まさに地獄絵図のようだった。
私の大好きな部活の裏の顔――――いや、これが真の顔なのか?
西篠先輩は倒れた拍子で手のひらをかなり大胆に擦って擦り傷になり
手から紅い雫が零れおちた。
山神先輩は押し倒した時に手首を少し痛めたようだった。
笠間は足首を捻っていた。
迅はいくら力のない悠斗とはいえ肩を殴られて仕返しにと
壁に悠斗を叩きつけたが、その時苦痛で顔が少しだけ歪んでいた。
私はいつも、みんなが怪我をしたときは手当てをしている。
だから、いつものように走って、救急セットを取りに走った。
すぐ隣の女子更衣室から自前の救急セットと、冷却スプレー。
部室備え付けの救急箱、冷蔵庫から保冷剤を出しそれを手ぬぐいで包む。
手のひらが、保冷剤で怖くなるくらい冷えた。
あの日も、こんな胸騒ぎがしていた。
作品名:白の枯れ園と揺れる僕ら。 作家名:成瀬 桜