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舞うが如く 第六章 10~12

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舞うが如く 第六章
(10)陸稲(おかぼ)


 
 新徴住宅から、松ヶ丘開墾場へ続く道の周囲には
うねりを見せながら、どこまでも続く未開発の丘陵地帯が広がっています。


 山岳信仰の中心地と呼ばれているのも、
うなずけるほど、背景にある深山群には修験僧たちの
荒行のための尖った地形なども連なっていました。
そのせいか川や水源にも乏しく、荒涼とした地形ばかりがやたらと目につきます。



 そんな景色の中で琴が足を停めたのは、
そこだけが艶やかな緑の覆われていて、風に揺れている畑の前でした。
周辺の畑に植えられているのは、干ばつ地でもよく育つと言われている
さつまいもや、南京(かぼちゃ)ばかりです。


 その畑だけが、初夏の日差しを跳ね返しながら、
鮮やかな緑色が思う存分に、やわらかく風にさざめいていました。
立ち停まった琴が、あらためてその様子を覗き込みます。



 「陸稲(おかぼ)じゃよ。」



 畑の中で草取りをしていた、ひとりの老農夫が、
大きく腰を伸ばして立ち上がりました。



 「見ない顔であるのう。
 これが、よほど気になった様子に有るが、別に珍しいものではないぞ。
 いやいや・・・これは失礼をいたした。
 わしは、見た通りの百姓の爺ィで
 次郎ベェという、ただのおいぼれじゃ」



 「これは、恐れ入りまする。
 わたしは、新徴屋敷に住まいいたす琴と申します。
 ご老人、陸稲とは、
 いかなる作物に、ございまするか。」



 「陸に植えた稲のことを、陸稲と呼ぶ。
 もっとも、始めたばかりのことで
 まだ大した収穫にはいたらぬがのう。
 陸で稲を育てる、
 これが、この老人の仕事じゃよ。」



 「大量に水を必要とする稲が、
 この乾燥地一帯でも、育つというのですか?」



 琴の問い直す言葉に、
この老農夫が嬉しそうに、目を細めて笑います。