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掌編集【Silver Bullet】

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 それから数日後。まだまだ暑いものの、夏は少しずつ列島から旅立ちつつあった。
 太陽はぎらぎらと照り付け、紫外線注意報は連日発令中。そのワリに海側からは涼しい風が吹き付ける所為で、紫外線が強いということを忘れてしまいそうになる。
 あの広場に道に差し掛かる。ほとんど偶然だ。偶然この道を使って、偶然その時、暇があった。だから、あの広場に行く道を探す。
 ――後から探しに行って見つからなかった、という怪談めいたオチがあったわけでもなく、程なくして広場は見つかる。
 前と同じように草むらを蹴り折って広場に入ると、あの時と同じように、影法師が切り株の上に座って、こちらの方をじぃっと眺めていた。
「……バカみたいだ」
 そう呟きながら、その影法師の横に座る。当の影法師は、ひたすらに私が入ってきた広場への入り口を見つめている。
「マネキンかよ……」
 黒い布を被せられたマネキンだった。黒い布には細工がしてあって、丸く切り取られたアルミホイルが二つ、頭に当たるところに貼り付けてあった。これが月明かりを反射して、光る目を演出していたらしい。首は折れてしまって、中骨の針金だけで首が繋がっていた。
 イタズラなのか、それとも何かに使った小道具をここに投棄したのか、いずれにせよはた迷惑なマネをしてくれる。
 ふと、思った。もし、幽霊情報と友人が呼ぶものが魂とか感情といった類のものならば、それを受け取った人間が見るものは幽霊と変わらないのではないだろうか、と。
 古来より物には魂が宿るという。もし、このマネキンに何らかの由縁があって、魂が宿るようなことがあれば、それはこのマネキンが幽霊と相違ないということになる。
 魂の解明・証明は未だ成されていないが、もしそれが正しかったら、自分の見たアレはなんだったのだろうか。
 何が言いたいって、要は「自分の見たものはやっぱり幽霊だった」、ということだ。
 そんな屁理屈を捏ねながらも、私は幽霊の存在を肯定する。このマネキンの存在は、私にとってそんなに残念なことだったのだろうか?
 考えてみて、詮のない話だと気付く。この結果が後の自分に何らかの変革をもたらすかと言うと、そういうわけでもない。

 首をだらりと下げたマネキンは、今では自分の足元を眺めている。私は首の位置を元の、空を見上げられるように戻すと、広場を後にする。
 もし、あのマネキンに幽霊が宿っていたとしたら、ここでじぃっと空を見つめ続ける彼――夏の怪物はどう思ったのだろうか。そして、この広場に入ってきた私をどう見つめたのだろうか。
 ――振り返ると、夏の化け物は青い空と入道雲を眺めていた。夏が終わる頃には、彼はこの広場から姿を消していた。

作品名:掌編集【Silver Bullet】 作家名:最中の中