掌編集【Silver Bullet】
男は拳銃には普通の鉛の弾丸が入っていると思っていたようだが、入っていたのはそれよりも殺傷力の劣る銀の弾丸。その僅かな計算違いが、私の命を繋いだのだ。九死に一生、もしちょっとでも男が前に出ていたら、もし私が銀の弾丸が入った拳銃を持っていなかったら、死んでいてもおかしくはなかった。
だからといって、骨折すらないのはどういうことなのだろうか? その旨をたださんに問いただすと――。
「何、お抱えの闇医者がいるのですよ。打撲から眠り病に至るまで、あらゆる怪我病気を治してしまうちびっ子魔法使いが」
胡散臭い話だ。まあ、運がよかったのだろう。
「あの時、もしあの拳銃を持っていなかったら?」
「あいつは自分の拳銃を使っただろうねぇ。彼なりの皮肉だったんだろうよ、『一般人が拳銃なんて持つからこうなるんだ』って言う皮肉」
嫌な話だ。
私は気持ち良さそうに眠るさわっちと妹さんを尻目に、事務所を後にする。
「あら、もう帰っちゃうんだ。もうちょいゆっくりしていきなよー」
「バカな。死に掛けたんだから、もういいだろ。こちとら銃を扱ったことのない一般人なんだ。これ以上危ない目には遭いたくないよ」
手を振るたださんを尻目に、私はテナントビルを降りてゆく。
痛む背中を摩りながら、冬の街を歩いてゆく。
さて、今日はどうしようか。とりあえず、ともちんにクリスマスプレゼントを届けなければならない。
そんなことをぼぅっと考えてた時だった、聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。
「おい、何で助けてっつったのに助けてくれなかったんだよ」
そいつは変な歩き方で近付いてくる。まるでどこか痛いところがあるかのようだ。
「――助けてって言ったって、助けようがないだろ、あんだけだったら」
「うっせぇっ! こちとら必死だったんだよぉぅっ!」
Mだった。こいつ、生きてやがったのか……。
「あのオカマ野郎、入らねぇっつってんのによぉ」
「ぶっ!」
だんだん見えてきたぞ。この事件の真相が。
ケータイに保存されている写メを改めて見る。この写メ、見るたびに違和感が消えていったが、今その違和感の正体が分かった。
始めはMが女性に囲まれているが故の違和感だと思ったが、その実この写真に写っている美女は女性であって女性ではない。
「こいつら……男だったのか……」
笑い声が抑えられない。ケータイの写メには、美女に囲まれるMの姿。その美女はその違和感の正体が分かっていればとても分かりやすい画像だった。
「わ、笑うんじゃねぇっ! こちとら男の処女をとられたんだっ!」
「ぶぼぉっ!」
もう、ダメ。お腹、痛い。
「おかげで歩くたびに響くんだよ、ケツがっ!」
「だ、だから、言ったんだ。気をつけろって、ぶふぅっ!」
ダメだ、楽しい。こいつ、生き様がギャグそのものだ。
「まあ、いいや。とりあえず、今日はともちんのところにクリスマスプレゼントを持っていったら、ご飯にしようよ。いい釜飯家を知ってんだ」
「マテコラ、何故釜飯なんだ。何故釜飯をこのタイミングでチョイスしやがったんだ」
「まあまあ。他意はないよ」
「他意はないってそのまんまそういう意味だな畜生がっ!」
こうして、一年は終わりを迎える。同時に、私たちの物語もまた、この辺で筆を置くこととなる。
今年は色々な事件が起こったが、まあ、いい一年だったと思う。
来年に思いを馳せながら、私はあのボロアパートへと足を向けるのだった。
作品名:掌編集【Silver Bullet】 作家名:最中の中