掌編集【Silver Bullet】
「子供、ねぇ。……見間違えなんじゃない?」
次の日の夜。事情聴取を終えた私たちは、昨夜食べることのできなかった鍋を囲んでいた。
「そんなこと――」
無いとは言えなかった。今思えば、それが何だったのか、説明できない。見間違えと言われればそんな気がしてしまう。
その子供は、祠の中にいた子供とは別人だった。その子は一昨日いなくなった子で、チラシの子供は残念であるが、あの骸の一つであった。
そして私が見た子供は、そのうちの誰でもなかった。というよりは、「子供だっ!」っとなんの根拠もなく思い込んでいたような、そんな気もしてくる。
「あの子、助かったらしいぞ。少しでも遅かったらアウトだったって。ただ、残念だけど手足はあのままだってさ」
喜ばしいと言うべきか、残念と言うべきか。命だけはと言うべきなのか、それとも人生が滅茶苦茶になったと言うべきか。それは人によって意見が分かれるところだ。
死という最悪は免れたが、無手無足という最低な人生だ。だが、それを最低にするか否かを決めるのはあの子次第だ。そして、あの子を取り囲む環境次第でもある。どう接してあげるのが一番なのだろうか。難しいところだ。
「なんにせよ、今度お見舞いに行ってあげなきゃ」
まあ、少しでもあの子の人生に関わったんだ。それぐらいしないといけないだろう。
「そうだな。あーいう歳の子って、何持って行ったら喜ぶんだ?」
食べ物とか花辺りが無難で良さそうだとは思う。
「自分の好きなモノを持って行ったらいいと僕は思うよ」
さわっちが熱燗を仰ぎながら言う。それはいい考えだとは思うが……。
「お前、日本酒なんて持っていくんじゃねぇぞ」
「全く、失礼だな……。いくら僕がヘビードリンカーだとは言え、流石に子供のお見舞いに日本酒を持ってくるほど常識外れじゃないよ。君だって、エログロ小説の類なんて持ってきちゃダメだからな」
「流石にそんな真似できねぇってのっ! 確かにエログロの類は大好きだけどさっ!」
その辺は私も心配していたところだった。あと怪談傑作集とかもアウトだろう。
「あいつは、どうなったんだろ?」
「……その話なんだがな」
――男は死んでいた。どうやら足を滑らせて、山肌を転げ落ちたのだとか。それだけなら男の不注意だが、どうやら足を滑らせた理由が山の中に転がっていた地蔵を踏ん付けてしまったのが理由なのだとか。
元々子喰らい地蔵は二つあった。一つは壊された後にまた作られた地蔵。これが子喰らい地蔵そのものであり、更にはあの祠の中に安置されていたものだ。そしてもう一つ、子供の悪戯によって壊されてしまったモノだ。これは山のどこかに捨てられていたらしく、男はその地蔵の一部を踏んだか躓くかして山肌を転げ落ちて死んだ。
なんとも薄気味悪くなる話だ。偶然と言われれば反論のしようがないが、それらに何らかの必然性を感じてしまうのが人間という生き物だ。
「さわっちは、どう思う? やっぱり偶然?」
「さあ? そりゃ僕の専門外だよ」
そう嘯いて、さわっちはまた一口、酒を呷るのだった。
作品名:掌編集【Silver Bullet】 作家名:最中の中