掌編集【Silver Bullet】
八/うみぞこのくじら
水の中に潜る夢を見る。
夜の海を、ひたすら底へと潜って行く。不思議と息苦しさはない。それはきっと、これが夢だからだろう。
足元に月を見下ろしながら、少しずつ、沈むように暗い暗い海底へと昇っていく。
それはまるで、宇宙へ射出されるロケットのように、しかし速度は鈍足で海の底に横たわるくじらを目指して寒い旅路を昇っていく。
――化け物たちが横を泳ぐ。まるで誘っているようだ。海の底にて蠢く彼らは、私を海底へと誘惑する。
うみぞこのくじらは、私を見る。冷たい海底で腐ることもせずに、少しずつ身体を蝕まれながら、私を見る。
その冷たい瞳は、私を射抜く。うみぞこのくじらは哂う。
何が可笑しいのか、それはついぞ分からなかった。
作品名:掌編集【Silver Bullet】 作家名:最中の中