せめて心から
絵葉書
『私達、結婚しました』幸せそうに笑っている二人が写っている絵葉書には、その言葉と結婚したのであろう日付が記載されているだけだった。
彼女を送り出したあの日から二年。
僕は単調ながらも平穏な日々を過ごし、彼女のことを記憶の奥底に眠らせたまま、幾人かの恋人達との出会いと別れを経験した。
彼女からの小包が届いたのは、何度目かの恋人との別れを経験した翌日の事だった。
小包には、一枚の絵葉書と数枚の便箋、そして、小さな木箱が入っていた。
絵葉書には送り先の住所が書かれておらず、記載されている日付が一ヶ月以上も前の日付だったことから、僕の住所を調べるのに時間を要したのだろうことが伺えた。
木箱を開けると、二年前のあのオルゴールが入っていた。
ネジを巻くと、ゆっくりとあのメロディーが流れ出した。
―― なぜこんな大事な思い出の品を送ってきたのだろう?
そんな疑問が浮かんだが、それはほんの一瞬でかき消され、僕の頭の中に二年前の彼女との思い出が駆け巡りだした。
オルゴールの音が止まることで、ようやく我に返ることができた僕は、小包に入っていた便箋を手に取った。
さすがに二年前に書いていたようなまるっこい文字ではなかったけれども、どこか愛嬌のあるそれは、彼女の字に間違いなかった。