徴税吏員 前編
詳しくはうちの課税担当の事務所まで尋ねてみて下さい。今回はそうじゃなかった場合のためということで分納の相談をお受けしましょう。」
大沢の言うのは災害による減免制度のことだった。自動車税であれば被害の程度により半分~全額、個人事業税も事業用資産の被害の程度により同様、不動産取得税も被害の程度により、その分か、代替で取得した不動産の税金が軽減される場合がある。
和は大沢が税の減免について話をするのを意外に思った。
「法を駆使しろ、法を。それで取るべきものは全力で取るが、取れないものは正規の手続きを踏んだ上で取ってはならない。」
大沢はそう言い、こういう場合の受け方について上司へ進言し、課としてそう取り扱うよう求めた。
羊田も、大沢から税金免除の言葉が出るのを意外に思った。しかし、それは温情というよりも、法令通りを徹底する大沢の意思の現れで出てきたことで、決してブレているわけではないと思った。
和にはこの夏に力を入れていることがあった。それは「滞納処分の執行停止(執停)」というものである。財産がない、生活困窮、行方不明などのケースに該当する滞納者からの徴収を、時効消滅まで一時的に諦めることである。その決裁を得るために、毎日調査書の作成に没頭していた。珍しく、和が法令通りに動く瞬間だった。
一方の大沢も、相変わらず黙々と机の上で作業することが多いが、同じく執停の調査書・決議書を作成している。羊田には、いくら法令通りとはいえ、かたや強制徴収し、かたや徴収をあきらめる判断基準が未だにわからずにいた。和は昨年、羊田の教育係として「催告して払えない人は出来る限り執停で落としてやるべき」と、自分は温情で執停しているような話しぶりをしていた。同じような相談を、今度は大沢にしてみる。
「とにかく、まずは執停の調査書に滞納者の所在や財産状況を記入する欄があるから、それに沿ってその通り調べることだな。そこで財産が出てくれば差押だし、所在がつかめれば事情を聞き、納付できる状況かどうかを確認する。そういうのが箸にも棒にも引っかからない状態で、何もない(不明)だったり、生活保護を受けてることがわかれば、執停と判断せねばならないだろうな。差押か執停かなんて最初から決めるものではなく、調べながらだんだんわかってくるものだ。」
ここでも、あくまでも法令通り粛々と臨む大沢の姿勢を感じ取るとともに、法令にも温情措置があるということを知った羊田だった。
「大沢さんにも執停がわかるんですね。これまで薄情な人とばかり思ってたんですが・・・・・」
和が言うが、
「勘違いしてもらうと困るよ。情で法をうまく運用しているのと、情に流されず法令通り・杓子定規を一貫して通している自分には大きな開きがあると考える。」
(つづく)