LITTLE 第一部
「うん。自分の事を悪く言っちゃ駄目。前にも言ったでしょ? 私達は、家族なんだって」
麗太君は頷いて涙を拭う。
辛い事が重なったからなんだろうけど、麗太君って意外と涙脆い。
震える手で、再びメモ用紙に何かを書く。
『公園の話、もっと聞きたい。皆で行きたい』
麗太君は、堪え切れない涙を目蓋に残しながらも、私に笑い掛けた。
=^_^=
朝の目覚ましの音が部屋に響く。
重い目蓋で時計を見ると、どうやら二、三度の目覚ましが鳴った後の様だ。
私は跳び起きて箪笥をあさり、今日の分の洋服を取り出す。
「もう! どうしてママも麗太君も起こしてくれないの!?」
春休みの反動があったせいか、目覚ましのベルを二、三度も逃すとは不覚だった。
今日が五年生の一学期初登校だというのに。
新しく買ってもらった春物のお洋服。
いつもは殆どママが選んでくれている。
私に可愛い服を着せて喜んでは、また別の物を着せる。
ママはしょっちゅう、私を使ってファッションショーをしているのだ。
近頃は麗太君も、その被害に遭っている。
廊下に出ると、麗太君も部屋から出て来ていた。
「おはよう。今、起きたの?」
麗太君は頷く。
二人でリビングへ行くと、隣のママの部屋から悲鳴が聞こえた。
何事かと思った次の瞬間、ママはリビングへ入り込むなり私達に言う。
「二人とも、このままじゃ遅刻よ! 急いで!」
ママに急かされ、身支度を整える。
朝ご飯は抜きで良いと思っていたのだが
「朝ご飯だけは食べて行きなさいよ!」
というママの言葉には逆らえず、黙々とトーストを齧る。
「優子、髪梳かしてあげる」
「え? いいよ。自分で出来るから」
「時間がないんだから私に任せて! それに、優子は髪が長いんだから、余計に時間が掛かるでしょ!」
麗太君の前でママに髪を梳かされていると思うと、少しだけ恥ずかしかった。
学校へ行く前、ママは必ず玄関先まで着いて来る。
「二人とも、忘れ物はない?」
「大丈夫だよ」
隣で麗太君も頷く。
「じゃあ、頑張ってね。二人とも仲良くね。いつも言ってるけど、知らない人に声掛けられても付いて行っちゃ駄目よ。えっと、あとは……」
このまま言われると限がなさそうだ。
「ママ。時間、時間」
「ああ、そうね。よし! それじゃあ、行ってらっしゃい!」
元気良く言うママに、私も笑顔で言う。
「行ってきます!」
隣で麗太君も、メモ用紙を見せる。
『行ってきます』
玄関の扉を開けると、朝の眩しい光が私達を照らし出す。
春の日差しや風は、私達を祝福しているかの様に暖かく心地よく感じられた。
作品名:LITTLE 第一部 作家名:世捨て作家