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世捨て作家
世捨て作家
novelistID. 34670
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HOPE 第二部

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 光圀はポケットから紙の包みを取り出した。
「覚醒剤。繁華街の路地裏とかで流行ってるんだ。飢えてる奴には、かなり高く売れるんだよ」
 手に持っていた紙の包みを舌で舐め取る様に、光圀はそれを丸ごと飲み込んだ。
 やがて、口からは涎がこぼれ不気味に笑い始める。
「そんな事を繰り返して、顔を変えたって訳か……」
「そうだよ。どうだった? 僕の顔を見て、その後に君の顔を見た、沙耶子ちゃんの表情はぁ!?」
 沙耶子は……こんな奴に……。
「お前が……沙耶子を……沙耶子をぉ!!」
 僕は光圀に飛び掛かり、胸倉を掴む。
 言いたい事があり過ぎて、何を言ったら良いのか分からず、ただ光圀を睨み据えた。
「何だよ? 僕が憎いのか?」
「……」
「殺せよ。ここで僕を生かしたら、次は何をするか分からないぞ。ほら、殺してみなよ。殺せよ‼」
 拳を強く握り、光圀の顔面へ真っ直ぐに打ちつけた。
 顔を押さえて数歩後ずさる。
「なんだよ……これだけか? まったく、これじゃあ、死ねないよ」
 そう言って、光圀は手を広げて笑って見せる。
「ああ、そうか。お前に人を殺す様な度胸なんてないよな!? 親が死んだくらいで、あれだけ動揺していたんだから。沙耶子ちゃんに抱き付いて泣いたりして、馬鹿じゃねえの!」
 本気で、光圀への殺意が湧いて来た。
 僕は彼の首に手を掛け、床に倒す。
 彼の体は薬でボロボロだ。
 その為、体力で負ける事はない。
 震えた声で、しかし怒りの混じった声で言ってやった。
「教えてやるよ。人の痛みをなあ!」
 指に力を込める。
 指先に触れる脈の鼓動が速くなっているのが分かった。
「これが、お前が今まで人に与えてきた痛みなんだよ! これが、僕達がお前から受けてきた痛みなんだよ!」
「うっうぅ」
 光圀は苦しそうにうめき声を上げながら、必死に訴えた。
「僕も……僕も辛かったんだよ。たまに思うんだ。自分は何をしているんだろうって。こんな事をして意味があるのかって……」
 彼の目から涙がこぼれ始める。
「く、苦しいぃ。お願いだ。警察にでも何でも行くから、もう、放してくれよ。もう、君達には近付かないから。殺せなんて自分で言ってたけど、やっぱり死にたくないんだよぉ……」
 こんな男でも、やはり人間だ。
 良心もまだ残っていたのだろう。
 そう思い、指から力を抜いた。
 そして、ゆっくりと彼の首から手を離してやる。
「だから、お前は弱いんだよ」
次の瞬間、彼の口から出た言葉はそれだった。
腹部が熱い。
見ると、腹には一本の包丁が刺さっている。
寒さのせいか、あまり痛みは感じないが、体が思う様に動かず、大きな声も出せなかった。
腹から血がドボドボとこぼれていく。
「光圀……お前……」
 僕の体はその場に崩れる様に倒れた。
「は、はっはっはっは。このバアーカ! 僕がそう簡単にお前の言葉を受け入れるとでも思ったのか!? 僕はお前と違って強いんだよ! 僕はなあ! 親を殺したんだ。その後、繁華街の路地裏で何人も失心させてやったよ! 僕は強いんだ‼」
 彼の声が段々遠くに聞こえて来る。
 視界が霞む。
 僕はここで死ぬのだろうか。
 僕は光圀を生かして、こんな所で死んでしまうのか。
 もし、そうなら沙耶子の幸せの為に、最後の力で僕は光圀を殺す。
 僕はよろけながらも立ち上がった。。
 それを見て、光圀は怯え出す。
 僕が前へと歩を進める度に、光圀は一歩ずつ後ずさり恐怖の混じる声で叫んだ。
「な、なんで立てるんだよ!? おぉい‼」
「思い知らせてやる。人の痛みをなあ‼」
 そう叫んで、最後の力を振り絞り、光圀を押し倒して首を締め上げた。
「うっく、苦しい」
 もう、容赦はしない。
 僕がここで全てを終わらせてみせる。


 光圀は、やがて動かなくなった。
 そして僕の意識も遠くなり、彼の隣に倒れた。
 視界が白くなり、頭がぼんやりとして来る。
 沙耶子に会いたい。
 せめて、死ぬ前には沙耶子と笑っていたかった。
「沙耶子……君が見えないよ」
 霞む視界の中で、部屋に置いてあるピアノだけが見えた。
 出来る事なら、あの夏に戻りたい。
 沙耶子と二人で過ごした、あの夏に……。
作品名:HOPE 第二部 作家名:世捨て作家