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世界は今日も廻る 7

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回るサイレンに、ちょっとデジャブを感じます。つか、野次馬マジで五月蝿い。
「お前さー。」
「あによ。」
「マジで、センスないのな。この手のディスプレイの。」
いきなり失礼なことを言ってのけた馬鹿。なんだかなぁ。これ、自信作なんだけど。
「普通さー、この手の猟奇ってバラバラにして魔方陣の中に置いてから黒魔術的な何かを演出するもんでしょうよ。それが何、あの赤いロープ。単なるSMの演出じゃないのよ?」
「いい感じに馬鹿っぽいじゃないか。」
ロープに仕切られた内側と外側で、温度差がヒデェ。
外側は、あくまで観客だからな。身勝手な野次馬が見せろ見せろと詰め寄って携帯掲げてシャッターを切っている。内側では、見せるな見せるなで必死にブルーシートだのなんだの広げているけど、間に合わない。すでに出回った写真はとっくにネットにアップされて何百枚、何千枚とコピーされて拡散していく。さすが、一億国民ジャーナリスト時代。手軽に情報を発信できるツールばかりが発達して、当たり前みたいに持ってるはずの死者に対する畏れとか尊厳とか、はるか彼方に置き去りだ。いや、そもそも死者に関する感情そのものが幻想なんだから、その幻想が崩壊したのも今更感満載だけど。
電子の海を漂う陰惨で悲惨で残酷な絵は、それそのものが娯楽になっている。
昔よりも鮮明になっただけで、人間はその手のモノを娯楽に変えることに厭いが無い。公開処刑を見に行くのが娯楽でピクニック感覚だったのが、わずか数年前の物だって分かってるのかい?自称良識者の諸君。
「あーあ、俺に任せてくれれば完璧な作品にしたのになー。」
「そりゃ悪かったな。どっかの誰かさんが途中で重いだの面倒だの言い出して放置しなきゃ、もう少し見れた作品になったかもな。」
「それもそーねぇ。」
「お前のことだけどな、人害。」
「あら、心外。」
「そのドヤ顔やめてください。何も上手くないから、何を上手いこと言ったみたいな顔してんのキモい。ウザい。」
俺に座布団二枚!とか叫ぶ馬鹿を殴ってから、まだ騒然としている現場へ視線を向ける。
十分な警告になっただろうかねぇ。やっぱり、爆弾とか爆弾とか、その手のテロ的な行為も付随しておけば良かったか。ヤベェ、爆弾の作り方とか知らねーや。ぐぐる先生にでも聞けばいいのか?
「おい。」
「あによ。」
「お前、ぐぐる先生に爆弾の作り方聞いといて。」
「何の話ですか?つか、ぐぐる先生って誰だよ人の話聞けよ。ぐぐる先生とか始めて耳にしたよ、俺は。つか何か、俺はお前のパシリか?パシリなのか?自分で調べようって気はないんですか?そのぐぐる先生とやらに自分で聞けよ、じーじーあーるけーえす。」
「わざわざアリガトよ。」
いい加減野次馬と警察が五月蝿いので、撤収。ちらっと見たブルーシートの中に、都世子さんとか、か、スズキさんが入っていくのが見えたけど。
夜の街を自転車を押して歩く。黒いコートはすっかり汚れたので、すでに焼却済みだ。それを見越して鞄に着替えいれてきて良かった。あのニットコート気に入ってたのに。まぁ、また新しいもの買おう。お金入るし。今度は黒じゃなくて白にしようか。白衣みたいでいいかもしれない。マッドサイエンティスト感満載だし、気分も上がる気がする。やっぱり演出は大事だよな。仕事の上で演出してテンション上げるのは必要だ。ってことは、眼鏡もいるのか?
「なぁ。」
「あぁ?」
「白衣、眼鏡、鬼畜。三点セットってこれでいいっけか?」
「いや、白衣、眼鏡、女医。これぞ黄金の三点セットだ。オプションは網タイツに黒髪アップでお願いします。」
「鞭と蝋燭は?」
「乗馬鞭と赤い蝋燭な。いや、鞭もいいけど指示棒とかソソルなぁ、おい。ってことは、女医じゃなくて女教師か。禁断の授業。いい響きだ。ってことは、俺は学生服かぁ・・・ブレザーと学ランどっちが似合うと思う?」
「似合う以前の問題で、年考えれば?」
中央通を下って、そのまま右折。遠くに見える大きなビルの手前で裏路地へ。昔ながらの赤提灯と古臭い連れ込み宿が軒を連ねるこの通りは、名前だけは昭和懐かし通りとか洒落ているんだか微妙な名前を付けている。夜の観光地と名高いこの通り、規則正しく並ぶ街頭に沿って規則正しく並ぶ世界各国の美女。外灯と外灯の隙間を縫う暗闇は一枚闇と呼ばれる野外ホテルだ。そんな中を、馬鹿と二人で歩く。不思議なもので、この路地に住む女も男も、地元者を嗅ぎ分ける嗅覚だけは確かで、絶対に声を掛けられない。暇つぶしに眺めるにはもってこいの場所で、居酒屋も安いし上手い。ただし汚いけど。
「ちーすっ!おっさん、取り合えず竹輪チョーダイ。それから、熱燗。」
屋台だか店だか若干区別が付かない汚い掘っ立て小屋の中に入れば、熱々のおでんが楽しめるし、酒も上手い。おでんの皿と熱燗のワンカップ、箸を咥えてビールの空き箱を椅子代わり。
「かーっ、染みるねぇ。やっぱり冬はおでんと熱燗を屋台が粋だよねぇ。小洒落た店でイタリアンだフレンチだ食ってる馬鹿に頭からおでん被せてやりてぇーな。あ、おじさーん。卵と厚揚げ。それからガンモとちくわぶ。」
うん、美味い。おでん最高だ。しっかり味が染みてるのに薄い桜色したタコ、同じく大根。卵は固ゆでだし、牛筋も入ってる。最近じゃトマトだのなんだの入れるみたいだけど、好きじゃないな。ここのおでんは関西風の出汁で汁の色が凄く薄い。でも、たっぷり入れた鰹の風味が強くて味もしっかりしている。
ワンカップをそのまま薬缶に突っ込んだだけの熱燗と、何とも最高の組み合わせだ。
「おい、竹輪半分やっから牛蒡巻き半分寄越せ。」
「一個食えばいいじゃねーか。」
「分かってないねぇ。この半分こってのが男の浪漫でしょーよ。可愛い彼女とおでんとマフラー半分こにして、あーん。熱くなーい?大丈夫だよ。ほら、あーん。かぁーっ!!これぞ男の浪漫!!」
「おじさん、ソッチの鶏手羽も。それから、つみれと厚揚げ。あ、大根ももう一個。それと、魚河岸ね。」
「やっぱり窓の外には隅田川でさぁ、銭湯の帰りに二人で一個の缶コーヒー半分こしたりとか。家に帰ると炬燵しかなくて、こう胸の中に抱きしめて、こうすれば寒くないよ。布団は一つで枕は一つ。互いに毛布を譲り合ってさぁ、風邪を引くよ。貴女こそ、みたいなぁ?憧れるねぇ、昭和歌謡の世界。」
「え?焼きハマグリ?マジで?食べる食べる。うん、そのまんま。おじさん、熱燗追加で。え?いいの?三つも?うわ、でか。くぅーっ、腹に染みる。美味しい。熱燗もう一本!久しぶりにハマグリ食べたよ、そうそう。スーパーだとさ、アサリかよってサイズばっかじゃんね。うまそー、それなに?」
おでんの鍋の隣で炙られているのは、本場北海道から送られてきた酒とば。これがまた美味い。噛めば噛むほどに魚の味がしっかりしている。ついでに、さつま揚げも炙ってもらった。これに生姜とネギをたっぷり乗せて醤油をちょこっと。その隣では、鰹の腹皮も炙られている。いつも不思議だけど、此処のオッサンどうやって食材仕入れてるんだか。今時築地だって扱ってないと思うようなものを平気で出してくるから侮れねぇーよな。この前食わせてもらったアジフライは絶品だったし。その前の鰹なまり節の酢の物も美味かった。
作品名:世界は今日も廻る 7 作家名:雪都