その娘、マホウショウジョ。
だから学校でも寮でも居場所を作れない私の代わりに、私の手のひらの舞台で駆け回ってくれていたお姫様。
必ず私が迎えに行って、大丈夫って言ってあげる。
絶対、私は、マホウショウジョ。
たとえサインがなくたって、探してみせます、お姫様。
真っ暗になった広場の中で、私ともう一人だけ立っている人がいます。
暗くてよく見えないけれど、私と同じくらいの男の子です。
彼も同じくキョロキョロ、キョロキョロ。誰かを探しているみたいです。
「あの、誰かをお探しなんですか?」
なんだか不思議で、私は声をかけてしまいました。
自分でもよくわかりません。ただなんだかこの人に呼ばれているような気がして、足下を見るのもやめて真っ直ぐ彼に話しかけていたのです。
「あぁ、ちょっと落し物を拾ったんで。持ち主が取りに帰ってくるかもしれないから」
なんだかとっても変な人です。
「それなら学園の事務室に持っていけばいいんじゃないんですか?」
「そうなんだけどさ。あのクソジジイ、あ、いや一緒にいた教授の野郎が、必ず取りに戻ってくるからここで待ってろ、って言いやがって」
ちょっと口の悪い彼。イライラとしているのがよくわかる皺の寄った眉間で、私の方を見ています。
それでも誰もいなくなるまで、ずっと待ってる優しい人です。
「それで、アンタは?」
「私はその、落とし物を探していて」
キラキラ光る金色コイン。誰かが拾って持って帰ってしまったのかも。
「もしかして、それってコレのことか?」
彼の手の中には、月明かりを反射してキラリと光るお姫様。私の探していた金色コイン。
「あの、はい……」
「なんでこんなトコ探してんだ?」
「え? だってここで落としたから……」
「アンタ、自分でさっき落とし物は事務室に持っていけばいい、って言ったじゃねぇかよ。なんで事務室行かずにこんなトコ探してんだよ、って聞いてんだ」
「あの、それは、大切なものだったので、早く見つけたいと思って」
「はぁ、やっぱり女って生き物はよくわかんねぇ」
溜息一つの彼は、なんだか余計に不機嫌そう。頭をひねって考えて込んでいるようです。
「あ、あの。コイン、返していただけないでしょうか?」
「あぁ、悪い。ほら」
彼の右手から私の右手へお姫様が飛び移ります。
光ったお姫様が私の手に収まって、ほんのり温かさが広がります。
「あの、えっと、ありがとうございました」
精一杯のお礼。今の私では、魔法はかけられないから。
「別にいいよ。じゃあな、気をつけて帰れよ」
「は、はい」
桜吹雪とともに消えていった彼。一人残された私の胸には、何か温かいものが残ります。
きっと彼も魔法使い。
私を幸せにする魔法を使ってくれたのです。
「おかえり、お姫様」
私以外にも見つけてくれる人がいてよかった。
暗くてよく見えなかったけれど、絶対私を見てくれていた。
けれど私は、マホウショウジョ。
誰かに正体を知られるわけにはいきません。魔法少女は誰にも知られず、みんなを幸せにするのです。
「あ、でも大丈夫」
彼は私を幸せにしてくれました。だからきっと彼は魔法使い。
魔法使い同士なら正体を知られても問題ありません。
桜の花びらで点滅する金色コインのお姫様は、なんだかちょっぴり嬉しそうです。
鼻歌交じりにスキップスキップ。今日、四回目の桜並木。
舞い散る花びらが顔に当たるたび、私は彼を思い出します。そのたびに胸が高鳴って、なんだかドキドキしてしまいます。
そんな私は、マホウショウジョ。
作品名:その娘、マホウショウジョ。 作家名:神坂 理樹人