「姐ご」 13~16
サラブレッドとは、
人間によって早く走るためだけに作られた、競走馬と言う意味です。
ひたすら早く走らせるために、それ以外の部分をすべてそぎ落とし、
優れた競争力と、勝つための能力だけを代々遺伝させることに心血を注ぎ、
長い歴史をかけて育成されてきました。
強い馬は獲得する競走賞金よりも、優れた遺伝子の提供こそに、
その本来の値打ちが潜んでいます。
強い馬を育て上げ、種牡馬として遺伝子を提供することで
あらたに莫大な利益をあげようというプロジェクトと、
その利益を配分するための組織・シンジケートが完成しつつありました。
多忙を極める工藤厩舎には、以前にもまして
多くの人たちが出入りをはじめました。
それらの人間を上手に采配するのが、
エクセルとの強いパイプをもつ正田の仕事でした。
工藤は、数人の同僚調教師を雇い入れて彼らに調教のほとんどを任せ、
本人は、北海道を中心に有望な競走馬探しに奔走をしています。
そんな忙しさの中、季節は春から夏へと変わり
中央競馬も首都圏を離れ、涼しい北海道や東北地方で開催する
「夏競馬」の時期を迎えました。
函館で開催された中央の夏競馬でエクセルの馬が、
ついに念願の一勝目を挙げました。
中央でも通用する競走馬の誕生で、人気は遂に沸点に達します。
続けて2勝目、さらに3勝目と順調に勝ち鞍(くら)が増えていきす。
これを背景に、遂に特別プロジェクトが始動をします。
狙いは中央のG1馬の血統馬たちです。
この間にエクセルが買い集めてきたのは、
500万円から1000万円ほどの
新馬ばかりですが此処に来て、一気に
「1億」の大台を狙い始めました。
中央競馬の最高峰、
G1レースに勝てる馬をエクセルが育成するという噂は
競馬愛好家たちの投資意欲に火をつけました。
ネットを中心に、一口馬主の会社「エクセル」には日本中
から巨額の資金が集まり始めました。
G1レースは、優勝賞金も高額ですがそれ以上に、
G1勝利馬にはその後の「種付け」による巨額の利益が保障されています。
中央でG1に勝利した馬たちが4~5歳の働き盛りで
引退していくのはそのためです。
無理してレースに使い、脚を故障した瞬間に
待っているのは「薬殺」だけなのです
いくら優秀でも、
脚を故障した瞬間に競走馬はその商品価値を失います。
こうしてエクセルの新戦略、「G1プロジェクト1億円キャンペーン」
が遂に大々的に始まりました。
(14)に続く
作品名:「姐ご」 13~16 作家名:落合順平