ホラー
沈めた体は入浴剤で見えない。平静を取り戻した水面には浴室の様子が映る。
ピチャーン。天井から耐え切れなくなった雫が水面に落ちる。波紋を作る。
しばらくして、再びものを映す鏡となる。
いつもなら、この時間、この状態は、とても苦手。
『この』の部分を詳細な言葉で説明するとすれば・・・
『家族は、すでにぬくぬくとした布団の中に入り込みまどろむ。ある者は、見苦しい格好も気にせず横たわり、またある者は、自分の存在を知らしめるように耳障りないびきを上げ、人のことなどお構いなしに眠りという異次元に彷徨う時間。音もなく、水面は動くことさえ忘れたように静かに体を包み、体を動かし波立たせることさえ拒まれる。明かりが灯っているから居られるだろうこの空間。もしもの瞬間、消えようものなら、向こう三軒に響き渡るだろう声をあげ、もしくはそれ以上の怖れを感じ、ひと声すらも出せないかもしれない。そのうえ、この明かりが在るが為、水面に映される浴室の様子の中に、本来あってはならないモノ、もしくはカゲが映し出されているのではないかという至上の恐怖を感じる状態』
別の表現もしてみよう。
『深夜十二時頃、静まった湯船の水面に周りが映る状態』