笑ミステリー 『女王様からのミッション』
翌朝、高見沢はホテルでクラマをピック・アップし、祇園の地下にある女王国・邪馬台国へと向かった。
入口は、沖縄旅行のレンタカーのナビから偶然見つけた桜見小路東入ルにある。
高見沢とクラマの二人は、夜の歓楽の宴が終わり、諸行無常の空虚さが漂う早朝の街の小路を歩き進んだ。そして、小さなサインボードに邪馬台国入口と表示のある所から地下三階まで下りて行き、重いドアーの前へと辿り着いた。
高見沢にとって、ほぼ三ヶ月ぶりの邪馬台国訪問。それでもこの訪問を待っていてくれたのか、ドアーは音もなく開いた。そして二人は躊躇することもなく、中へ入って行った。
そこは喧騒な世俗世界とはまるっきり正反対な格調高い厳かな空間ワールド。高見沢に寄り添ってついて来ているクラマ、そんな荘厳さにもまったく物怖じする風でもない。
クラマは気品高く、ゆったりと歩き進む。そんな一挙一動のクラマには、この厳粛な雰囲気がぴったり似合っていると言っても過言ではない。しかし高見沢は、その場の空気が読めていないのか、トンチンカンに。
「ここは妖しい秘密クラブでないので、心配しないようにね」
まさにそれは中年男の鬱陶しくて不必要な気配り。だがクラマはそれに応えて、嬉しいことを言ってくれるのだ。
「いいえ、心配なんかしていませんわ。なにかここの空気が私を安心させてくれます。今まであった切なさを、どこかへ押しやってくれるみたい。今はほっとした気分なのですよ、高見沢さんにはお礼を言いたいわ」
これを聞いて、高見沢はニッコリ。
「クラマさんにそんなに感謝されて、これぞ無上の喜びとするところで、光栄のドン突きですよ」
こんな会話を交わしている時に、シーンと静まりかえった奥の空間からマキコ・マネージャーが現れた。
先日の京都駅での黒のビジネススーツから、珊瑚朱色(さんごしゅいろ)のロングドレスへと見事にお色直しのようだ。それは洋服でもなく着物でもないロングドレス。そんな邪馬台国のユニホームを身に纏って、慎ましくしゃなりしゃなりと。そこへ加えて、充分過ぎる女の色香を発散させている。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊