笑ミステリー 『女王様からのミッション』
しかし、そんな思いに反し、つれない返事が返ってくる。
「残念ね、魂を頂くのは、私じゃありませんのよ」
「それじゃ貴女よりベッピンさんにってこと? だけど、貴女より綺麗どころなんて、この邪馬台国にはいないんだろ。やっぱりマキコお姉さんじゃないと燃えてこないよなあ」
高見沢は中年の食い下がりで、再度すがってみた。するとマキコ・マネージャーはヤケに落ち着いて、「ありがとうございます」とオッサンの粘りをさらっとかわし、言い放つのだった。
「まず、その魂を頂く手法は、ハバネロのお風呂に頭から浸かって頂き、心身ともに唐辛子のカプサイシンで活性化させて頂き、血走り飛び出してきた魂を丸ごとコピーさせて頂きたいのですよ。よろしいでしょうか?」
「ちょちょ、ちょっ、ちょっと待ってよ、俺の魂だろ、なんでトンガラシの風呂なんだよ。それ残酷過ぎるゼ、せめて薔薇風呂にしてくれない?」
「ダーメ! 薔薇じゃ、オッサンにはもったいな過ぎるし、眠くなるだけよ。とにかく魂を激辛で血走らせないとね」
高見沢はこんな説明に「うっ」と言葉を詰まらせざるを得ない。
二人の間にまたまた重い沈黙がしばらく続く。そして高見沢は気を巡らせ、ぽつりぽつりと呟く。
「マキちゃん、俺の魂のコピーって、本当に欲しいの?」
「はい!」
マキコ・マネージャーからは一発返答。そして、「単にコピーするだけよ。魂を抜いて削除してしまうわけではないから、何もかもこちらに任せなさいよ」と力強い。
こんなマキコ・マネージャーの押しに、高見沢の心がぐらつく。
「そんなにコピーしたいのなら、そうしてくれても良いけど……、なんで俺のような腐った魂が必要なの?」
最近の高見沢は惨憺(さんたん)たるもの。仕事で精魂を使い果たし、夜はアルコール漬け。若い時のように純で美しいものではない。
「いいのですよ、その満身創痍(まんしんそうい)で、捻(ねじ)れていて、ヨレヨレではあるが粘着力のある魂が、実は値打ちがあってね。これからも邪馬台国がしぶとく生き残って行くためには、それを一つの世渡り術・試行サンプルにさせて頂きたいのです」
まあマキコ・マネージャーは言いたい放題で仰ってくれるものだ。
「だけど、ハバネロのお風呂に入るのだろ、ねえ、マキちゃん、一生のお願い、お互いに素っ裸になって、御一緒にお風呂に入って洗いっこしようよ」
この辺がどうも粘着力のある魂のサンプルになる所以(ゆえん)なのかも知れない。高見沢はまだ懲りずに精一杯のオネダリをする。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊