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これは恋ではない 1.01

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不定期に俺を悩ませるメール着信音が、また部屋に響く


(以下引用)---------------

心配かけては…申し訳ないかなぁと思い、愚痴っちゃうと…ついつい甘えてしまうので、我慢していました

全くもって状況は良くなく、むしろひどい展開になっています金曜日にグリーの彼女が実家まで夫に会いにきました。おまけに土曜日の朝5時に彼女を家に連れてきました。

ちなみにその彼女を自宅まで送り届けに一家そろって今、彼女の住む町にいます

たまらなく悲しい
(引用終)----------------



メールを見て、俺は
神から祝福されて生きる人間と、そうでない人間の圧倒的な格差に愕然としていた…

今年の夏
15年来の親友は体調を崩し、メンヘル気味な自分と似た境遇の女を、SNSサービスで釣ってで浮気していた。

親友である、病んだ夫を、眠る間も削って稼ぐ妻に、子供を奪われた境遇の俺を、慕ってくれる天使みたいな可愛い子供。
身体を壊しただけで、妻が救うどころか子供を連れて逃げた俺の糞みたいな人生との落差に愕然とするしかなかった。


15年来の親友で、ある程度価値観を共有していたとおもっていたが、とんでもないモンスターだといまさらに気づいた。
ささやかな幸せを踏みにじってまで、更に別の果実を欲するモンスター!
見た目じゃないイケメンってこれなんだな。

親友の所有物とマナーを守り、15年連絡先もしらなかった嫁となかば強引にアドレス交換を了承このザマかよ…

親友の嫁からは彼女が夫に、これだけ虐げられても、パンチドランカーみたいなメールが来る。いたたまれなさは俺の痛みとなる・・・。


愛という絆はこうも強いものか?
なぜこうも耐えられるものか!
俺のただでも不良な回路をこれ以上壊すのはやめてくれ!

ノイズで前が見えなくなりそうだ…


(以下引用)-----------------
日曜日に柳沢さんとメールをした後、自分の気持ちとこれからの事について夫と話をしたんです。

二人で並んで砂浜を歩いていると、長女が走ってきて
「パパはワタシのものなの!!」
といいながら割り込んできては、手をつないできたり、生まれて初めて海に遊びにきた長男は
「パパ!!こんなに楽しい所に連れて来てくれてありがとう猫また連れてきてね。」
と夫に話をしていました。
長女は土曜日に何時間も車の中で待たされて、私は怒りのピークに達していたにもかかわらず…
「パパおかえり」
と言っていました。帰りの車の中で突然!!次女が、
「パパとママはワタシが守ってあげるからねっ!!」
と言われ、涙が止まりませんでした。
その夜中…さすがの夫も泣きながら、悪かったと謝ってきました。子供達を自分から離さないで欲しいこと。私の気持ちに気づいたこと。グリーの彼女とも時間はかかるが別れると言う夫の気持ちを正直に話してくれました。

正直…何度も夫の妹に話をしようかと思いましたが、父や母までもの耳に入る可能性もあり、そうなると私達の家族は皆バラバラになってしまいます。

子供達は私や夫を、必死でひき止めています。私が何を言っても聞かなかった人が、子供の変化には父親として責任を感じて反省しています。

だから…もう少しだけ、夫も含め私達家族を見守っていてください!!
お願いします!!

(引用終)-----------------


素晴らしい感動のドラマか?
命は地球より重いというが、俺の命は紙屑より軽いってか。

俺は片親で過ごした寂しさもあり、異常なくらい親友の子供達に肩入れしたい気持ちがあった。
ひどい肩すかしをくらって、俺の価値観は酷くぐらついていた…

俺の人生の全ては、意味の無いことに気づいてしまった…
見て見ぬふりをしてきた真理に近づいてしまったのだ…

アダムとイブは禁断の果実、林檎を食べて楽園を追われた…

俺は北風にコートまで剥ぎ取られ、凍えて立ち尽くすのみだった…


俺は俺を貶めたい
彼より卑しく
天使に唾をはきつけるような…
自分をすり減らし
誰かがすり減ってしまう事はなんだ?!


俺は価値観の崩壊の度に何かにすがってきた。
「文学」は人生を見せてくれたが、我が道を指し示してはくれなかった…
「音楽」は心の安らぎをくれるが、激しい孤独のアンプルにはならなかった…

なにかに逃避しなければ、すがらなくてはならない!

自分を貶めるにはどうする?
そうだ!金で愛を買う行為で、俺と人間の尊厳をふり捨ててやるさ!
真実の愛なんてどこにもないのさ!馬鹿馬鹿しい!!!!!
これはいいアイデアだ!
金で性行為を買い。互いにすこしずつ、すり減ってしまう。
愛を知らぬ俺にはおあつらえ向きの行為に違いない!
俺は俺を握りつぶしてしまいたい情動に身体を震わせていた。

…………………
段取りをつけてひとしきり。

「ひなた」さんという、人なつっこいという解説の美しい、二十歳の女性をオーダーする。
僅かながらも、俺でさえ、女性と共に生きることもあったが、義務と責任、あとは価値観の押しつけ合いしかなかった現実に、
嘘でも演技でも疑似恋愛出来るなんて、素晴らしい世の中だ!有り難い話しじゃないか
失礼があっても良くないだろうと、部屋と風呂とトイレの掃除をして不安な時間を飛ばす…
「ピン…ポーン」
少し間の抜けたインターフォンが部屋に響いた…

「こんばんわ☆」

端正な顔立ちに人なつっこい雰囲気。
育ちの良さそうな丁寧な物腰に爽やかな会話。
俺の生きる世界にはこんな輝きはなかった!

身の上話をしてみても、不況が無ければこの世界に足を踏み入れるタイプには見えない
目が合うと無意識に笑うその瞳は自分が感じた事のない部分にそっと触れた…


酩酊し、手はふるえるが悟らないように部屋へと通し、ドリンクを出して世間話。
一方、公の生活はまずまずだった。嫁一家に娘を盗られたことと、長年の人格否定(価値観の非共有)で鬱病を患い、何ヶ月も床の中で過ごした…
幸いにも、手当たり次第にドクターショッピングをして、いままで会った事もないような、高いレベルの医療を受け、医師と共に生活の再構築をはかった。
遅々とした歩みではあったが、一つ一つ目標設定をして、計画的な社会復帰を歩むことになった。

家族を養うために職種を検討し、電気の世界の門を叩くが、とんでもないブラック企業で、上記の病む主因となった。人外魔境なので詳しく書く必要はない。

家族(ファミリー)の幻想の崩壊と家族のために押し殺して働いたダメージは、命の限界スレスレを這うような危うさ、薬抜きで眠れず、立ち上がれず、死人を引き受けてくれた実家でも、破綻した人格では生きていくことは苦痛以外のなにものでもなかった。


あくまで前向きにドクターとディスカッションで生活を矯正していく…
まずは多額の薬代を軽減。
専門家の立場での生活改善の提案。

結局は時間が解決してくれたんだが、前職種への復帰が最短距離かつ希望であると合議した。
医師は言う
「柳澤さんの努力の賜物ですよ」
と…。

寝たきりの病人が薬でドーピングしながら全日制の職業訓練校に通う。