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パシフィスタ
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novelistID. 34567
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背中

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「餃子♪餃子♪餃子♪」

―――――――――――――――――

「はあ。美味しかった。」

「よかったな。」


夕飯も食べ終わり、俺の部屋に場所を移した。
美優は餃子を食べることができたことで、ハイテンションになっていた。


「本当に美優は餃子さえあれば生きていけるな。」

意地悪く笑って言うと、

「そうかも!!」


予想外の、満面の笑みで返ってきた。


「・・・冗談で言ったつもりだったんだけど・・・」

「え~!!もぉ~~!!」

美優はふてくされて、俺のベッドにダイビングする。


「えい!!!!」


バフッッッッ!


ベッドの上にあるはずの枕が俺の顔面を直撃する。

「いてぇ!!」

俺も負けじと枕を投げ返す。

10分くらいだろうか。

一階の居間から母さんの叫び声が聞こえる。


『うるさいわよ!!!!近所迷惑!!!』

俺と美優は顔を見合わせて、笑った。

『♪笑ってたいんだ 僕はずっと 見つめてたいんだ 君とずっと♪』


そのとき、いきものがかりの「笑ってたいんだ」の曲が部屋に流れた。

この着うたは美優の携帯のものだ。


「もしもし。あ、お母さん。うん。龍のうちにいるよ。え?あれ?龍のお母さんに聞いてない?今日は龍の家でご飯食べるって。」

「え?母さん言ってなかったの?」

「うん。そうみたい。」

「俺ちょっと文句言ってくるわ。」

そう言うと俺は部屋を出て階段を降りていった。
居間のドアを開けると、台所の入口のところに何か刃物のようなものが落ちている。


包丁だ。


「?・・・母さん?」


その時、俺は台所で横たわる母親の姿を見た。

その顔は完全に血の気が引いていた。


俺は何がなんだか訳が分からなくなって、叫んでいた。美優が部屋から飛び出してきた。


「龍?どうしたの?」

「か・・・母さん・・・母さんが・・・」

「!!!!!きゅ・・・救急車!救急車呼ばなきゃ!!!龍!しっかりして!!」

「お、おう。救急車。」

美優の一言に冷静さを取り戻した俺は、電話を取り、119番した。


―――――――――――――――――



ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・

単調な電子音が病室内に響く。目の前には病院着を着て酸素マスクを装着した母親が白いベッドの上で寝ている。

「はい。龍。」

横を見ると美優がジュースの缶を俺の頬にくっつけていた。

「今日、母さんここの病院に来てたんだって・・・」

「留守番してたとき?」

「そう。すい臓がんだって。もうあと3ヶ月も生きられないだろうって・・・」

「うそ・・・だって、さっきあんなに元気だったじゃん・・・」


そう。さっきまで元気だった。元気に見せてたんだ。


「無理してたんだと思う。」


俺は変に落ち着いていた。冷静だった。

自分を今まで育ててくれた大切な人だった。

父親をまだ全く記憶のないときに亡くし、それからずっと働きながら俺を高校まで行かせてくれた。俺はなんて親不孝だったんだろう。そんな後悔もあった。

それから2ヶ月、俺は学校にもいかず、看病をし続けた。

美優も毎日のように病院に来て看病してくれた。「どうにか、奇跡が起きて欲しい。」


そんな俺たちの願いは叶うことなく、母親は俺と美優に看取られながら静かに息を引き取った。
その顔は見る影もなく痩せこけていた。



―――――――――――――――――



久しぶりに家へ帰り、遺品を整理していたら、タンスの奥から手紙が出てきた。



『龍之介へ

まず、龍之介が大人になる前に逝ってしまうこと、許してください。ごめんね。

母さんにとって、龍之介は宝物でした。

父さんが早くに亡くなって、龍之介が母さんの支えでした。

どんなに苦しくっても、辛くっても、龍之介のためだと思えば、がんばれました。


父親がいない環境で、どんな子に育つのか、実はとても不安でした。

美優ちゃんという、素晴らしい友達を持って、母さんは安心しました。

美優ちゃんを手放しちゃダメだからね。


龍之介はこれから、たくさんの大きな壁にぶつかるでしょう。

辛く、苦しく、悲しいことが待ち受けているかもしれません。

そんな時は一人で抱え込まないで、美優ちゃんや、周りの人に頼ってみることも必要だよ。

どんな時でも母さんは天国から龍之介を見守っているからね。

最後に

「ありがとう。ごめんね。」』



俺は涙が止まらなかった。

葬式の時にも出なかった涙が、堰を切ったようにあふれ出てきた。

泣いても泣いても、全然止まらなかった。

「ごめん。」それしか言葉にできなかった。


その姿を後ろで見ていた美優はそっと俺の背中に手を触れてくれた。
何時間泣いたことだろう・・・。

俺は美優を抱きしめていた。

美優は嫌がることなく、ずっとそばにいてくれた。

離れないでいてくれた。

周りはすっかり日が暮れていた。「ありがとう。」

俺は美優に言った。

「うん。」

美優は短い言葉で返す。

お互いに涙で濡らした目がパンパンに腫れていて、

思わず笑みがこぼれる。


思いっきり泣いて、少し心を整理することができた。
作品名:背中 作家名:パシフィスタ