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八月 石華
八月 石華
novelistID. 28121
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お嬢様の百合色戦線

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「そぅ。あなたがそこまで言うならば安心だわ。それではお願いするわね。」
「必ずや満足いくものを探してまいります」
今回はわがままを言ったが嘘はいっていない。
名前も確かリンゴといったはずだがしっかり覚えていないからしょうがないと言い訳をした。
その日の夕食のときのことだった。
「お嬢様、今晩から出発させていただきます」
ここまですぐ動いてくれるのはやはり嬉しい。
「分かったわ、気をつけて行ってくるのよ。」
「気を使っていただきありがとうございます」
「あちらでも少しゆっくりしてくるといいわ。外に出るのは久ぶりでしょう。」
「ありがとうございます。お気づかいだけで結構です」
「そう、分かったわ」
彼女が屋敷を留守にすることは良しとはしないからゆっくりすることは初めから期待していない。
しかしエデンと言えば車でも片道二日はかかる距離である。
かなり急いだとしても明後日までは帰ってこないと思う。
善は急げ、明日早速招待しよう。
「空が青いわ」
いつもと変わらぬ晴天を見ながらつぶやいた。
「やはり嬉しいことがあると全てが新鮮に見えるわ」
早速朝食をすませてプロティノスを招待するために声をかけに行こうと思っているとドアがあいた。
「おはようございます。お嬢様、今日はお早いですね」
聞くはずのない声といるはずのない姿があった。
「あなた昨日出かけたのではなくて?」
そこにはオッカムがいたのだった。
「先ほど戻りました。良いものが手に入りましたよ」
「早いわね。エデンまでどうやって行ったの?」
一番知りたい疑問を投げかけてみた。
「徒歩です。かなり距離がありますので切り落としてまいりました。」
「はぁ」
「それで夜のうちに全ての畑を見させていただきまして、最良の品を買ってまいりました」
信じる信じないは別として長年の謎が解けたことは間違いがなかった。
彼女の前では距離の概念は不要らしい、だから彼女はいつでもすぐ私の元に来れるのだ。
超人だとは思っていたが人かどうかが今は問題になりかけていた。
「今日のデザートはアップルパイにしますので楽しみにしていてください」
そのアップルパイがとても美味しかったのは言うまでもないことである。

今回は自分が人ならざるものを出し抜こうとしていたことを懺悔した。
そして彼女をどうにかするのは無理なので自分が屋敷の外にこっそり抜け出すしかなかった。
「明後日の休みにアクィナスのところに行きたいからアップルパイをまた作ってくれる?」
「招致いたしました。何時ごろに届くようにいたしますか?」
「平気よ。自分で持って行くわ」
「お嬢様にそんなことさせるわけにはいけません」
「あなたには他に頼みたいことがあるの。ダメかしら」
「いえ、それは構いませんが」
「ありがとう。では当日になったら話すから待っていてね」
「招致いたしました」
昼を過ぎるとアップルパイの甘い香りが屋敷中を包んだ。
「お嬢様お持ちしました」
「ありがとう。少し外で待っていてくれるかしら」
「ご用意ができましたらお呼びください」
オッカムは部屋から出て行った。
今回ばかりは怒られるかも知れないと覚悟して窓から外にでた。
プロティノスとあったことは秘密にしたいのであまり人目につかないようにしないといけない。
そこで家の裏の森を通って行く計画にしている。
「早くこんなところ出たいわ」
森の中は薄暗くじめじめしている。
風もひんやりとしているが湿度のためか肌にまとわりつくような感覚がする。
初めは歩いていたがその足は徐々にペースを上げ、今では小走りになっていた。
「あっ」
夢中で走っていたため土から少しでていた根に気がつかなく、足をとられてしまった。
しかも彼女の向かう先が崖になっていた。
もうダメと思った時だった、急に横から黒い影が飛び出してきた。
「お嬢様、ご無事ですか?」
「狼がしゃべった?」
「しっかりおつかまりください」
どんどん遠くなって行く崖の木々が一瞬にして消えた。
「!!」
言葉も発せないほど驚いたが、自分たちより下にその崖が見えた時はもっと驚いた。
「嘘じゃなっかたのね」
オッカムは先日話していたように距離を縮めたのだった。
「お嬢様何をなさっているんですか」
普段は見られない怒りが含まれた声だった。
「あなたを試したよ」
最大限の強がりだった。
「これがあの時の頼みたいことですか。それでは完了ということでよろしいですね」
「えぇ、そうね。満点だわ」
どうやら勘違いした彼女はその言葉に大いに喜んだ。
その後アクィナスの家まで送ってもらった。
思いっきり蛇口をひねったようにアウグスティヌスは話をした。
今までの経緯を聞きながらアクィナスは思った。
「なぜあなたはもっと気がつくべきことに気がつかないんですの」
「えっ?何のことかしら?」
アウグスティヌスとプロティノス達は聖フィロソフィー学園の生徒でクラスメイトなのだ。
いまだにクラスメイトと学校で話すということに気がつかない勤勉な友人は内緒にしておこうと思う。
作品名:お嬢様の百合色戦線 作家名:八月 石華