洋琴奇憚
それにしても、ヴァルトさんはレオノーラの推測ではかなりひどい目に会ったに違いないのに、なぜかこの会には参加したという。
レオノーラはその真意を知りたくて仕方がなかった。ブリッジさん経由で聞いた話では、帰り道にももこさんと一緒になってしまって、ひどくなじられたとか。なんでこんなひどい目に会うのか理解できず苦しんでいるらしかった。
しばらく後に、ヴァルトさんと話す機会があった。なんと、この人は実に優しい人で、怒鳴られたとねちねち絡まれいやな気分になった後も電話に出てあげていたらしい。クリスマス会に行ったのは、もう会わないだろうから、挨拶をするためだと。
彼の分析によると、ももこさんとしては、自分が管理人をやっている会なのに、レオノーラやてまりさんが中心人物になっていることが気に入らなかったのではないかと。あのひとはすごくコンプレックスを感じていて、それは社会的なことや、家庭的なことも、ピアノの技術も、音楽知識も、あげくに見た目も、どうがんばっても中心にいることができなかったからなのではないかという。レオノーラを連弾で独占したがったのは、レオノーラと一緒に弾きたい人がたくさんいるだろうから、それがいやだったのではないかと。ももこは誘われないだろうから。
そんな小さな場所で、中心にいたかったの?とあきれてしまったら、ヴァルトさんは、どこにも自分の居場所がない人っているんですよ、とやんわりと言っていた。
こんなこと言っていた、ってあれこれ引用していたが、その多くにレオノーラがももこに語ったことが含まれていた。
レオノーラ語録を忘れずに、ってこのことか。なんとも恐ろしい。
ヴァルトさんにはひとつだけ教えてあげた。持っているものがなくても、まわりに人が集まるような人になる方法はあったのにね。人柄っていう無敵の武器を身につけさえすれば。
彼女の場合、”わたしのサークル”って思った瞬間に、すべては終わったの。サークルを管理することなんて、自分が中心になることじゃなくて、ボランティアで人のために楽しみの場を作ることなのに。
これほど沢山の人を悩ませ苦しませた人物であったが、レオノーラはどう言うわけか、かももこさんが気の毒でならなかった。自分が立つ場所を作りたかった、その気持は痛いほどわかったから。
でも、もちろん、もう二度と彼女と会いたいとは思わないけれど。
レオノーラにだって、闇はある。
落ち込んだときに悪いことを囁く悪魔とも知りあいだ。
大概の人は、悪魔や闇を光に変える努力をしているから、なんとか前に進めるのだ。
オンディーヌは水の精。
人間に恋をして、その恋人に死の呪いをかける。
fine.