表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)―
「支部長!敵部隊の接近を確認!」
「各所の監視部隊から報告!地方拠点にも敵部隊、集結中!」
支部長室に、二人の伝令が飛び込んできた。
「分かったわ。各所に通達!」
あたしがそう命ずると、二人は姿勢を正し、あたしの命を待つ。
「作戦開始!」
午前六時十三分。
決戦が、始まった。
あたしがするべき事は三つある。
一つ、この拠点の防衛。
二つ、敵本陣の割り出し。
三つ、敵本陣への奇襲。
霧崎の殺害については、今は考えない。
居場所が分からないのだ。
考えても仕方ない事は、考えない。
「総員戦闘配置!フェイズ1、開始!」
ゆりが端末に向けて、命令を叫んだ。
すると、ほどなくして、外から銃声が聞こえてきた。
「まずは、第一のヤマだな。」
「ええ。これでどこまで時間を稼げるか、ね。」
フェイズ1とは、つまりは施設外部での防衛戦らしい。
このビルの外、外部とはビル郡によって隔絶された四角い空間には、今はバリケードが張り巡らされている。
さながら迷路のように。
その空間を利用して、敵を足止めするらしい。
「しかし、通路を壊されたらどうするつもりなんだ?」
「そのためにオレたちはここにいるんだろうが。」
そう、この部屋にはモニターがある。
上から多数のカメラによって外部の状況を把握し、必要に応じて指示を出す。
まあ、指示を出すのはもっぱらゆりで、状況の確認はほとんど煌がやるから、俺はあまりやることがないのだが。
この部屋には、俺と、煌と、ゆりしかいない。
他の連中は、別の仕事をしている。
「よし、今のところおおむね好調ね。」
確かに、モニターを見る限り、戦闘はこちらが押している。
敵は迷路の形を把握していないから、奇襲もし放題だ。
もし押されたとしても、すぐに隠れて体勢を立て直せる。
だが。
「数が、少なくないか?」
「そりゃそうよ。あちらさんは、関東支部の全ての施設を同時攻略してるのよ?全部隊を集結させているうちとは、わけが違うわ。」
「そんなものなのか……。」
「まあ、しばらくしたら、向こうも罠に気付いて、こっちによってくるだろうがな。」
それまでにどこまで削れるかが勝負だ、と煌は言う。
「もしもし?無線の傍受状態はどう?」
『良好です。しかしながら、現在のところ目ぼしい情報はありません。』
気付いたら、ゆりがどこかと通信していた。
会話の内容から察するに、どうやら通信室とだろう。
通信室では、こちらの情報を集約、伝達しているだけではなく、敵方の無線の傍受も行っている…らしい。
どうやっているのかは知らないが。
「………ええ。ええ。分かったわ。今からそっちに行くわ。」
そう言い終えて、ゆりは無線を中断する。
「煌、ちょっと通信室へ行ってくるわ。指揮は任せる。とりあえずは防衛に専念して頂戴。作戦の変更は随時連絡するわ。」
「了解。」
ゆりが席を立ち、部屋から出て行くと、煌がそれに代わって支部長の席に着き、モニターを眺め始める。
「西-Bの区画にいる部隊、西-Dの壁が破られるぞ!奇襲に注意しろ!」
『了解。宇田川班、西-Cに移動します。』
「北側は3班でいい。2班ほど西の応援に回れ。」
『了解。草野班、西へ回ります。』
『二ノ宮班、西へ回ります。』
「南-A付近の班!南-AからBにかけて制圧されかけてるぞ!戦力を集中して押し返せ!」
『了解。栗田班回ります。』
『小城班、応援に回ります。』
『赤坂班から指揮者へ伝令!野々村班の数名が負傷!野々村班は撤収!応援を回してください!』
「場所は?」
『東-B付近です!』
「分かった。すぐに送る。待機中の班に告ぐ!二班ほど東-B付近へ向かえ!敵に制圧されている可能性もある。注意しろ!」
『緊急伝令!北-AからDの区画の壁が壊滅状態!制圧されます!増援を!』
「北が破られる!待機中の班、北側の応援に回れ!」
………すごい。
ゆりの時も思ったが、すごい。
何が凄いって、マップも見ずに、複数台あるモニターをチェックしつつ、正確に指示を飛ばし、突発的に入ってくる無線にも対応している。
今までゆりや煌が指揮に回っているのは見たことがなかったが、こいつら、こんなに凄かったのか。
「………チッ。仕方ない。特殊班、北へ回れ!ミサイルの使用を許可する!北-AからDの区画付近の奴は後退!特殊班はその区画へ!取り返せ!」
『野田班了解。北区画の制圧へ向かう。』
「………はぁー。」
そこまで指示して、煌は溜息を吐いた。
「これでどうにかなるか……。」
煌が呟いた通り、それ以降は、通り一遍の報告くらいで、特に急を要する報告は入ってこなかった。
「で?今のところ、何か分かった?」
あたしは、通信室で、敵の情報を探っていた。
「……今のところは特に。」
「チッ。敵の本部に関する情報は、どんな小さなものでもいいから漏らさないでよ。」
「分かってるよ。」
敵の本部の場所は、アークの情報網を以ってしても、謎のままなのだ。
裏組織の本部なんて場所を構えられる場所なんて限られているはずだ。
だが、それらしき場所をどれだけ探しても、本部らしきものは見つからない。
「一体どこに居を構えてるのよ………。」
それが見つからなくちゃ、奇襲も何もあったものではない。
「……ゆり。監視班から報告。」
「なに?」
「……千葉倉庫のほうで、爆発を確認した。」
「現在時刻は?」
「七時十七分三十二秒。」
「ありがとう。」
「ゆり!埼玉のほうからも報告!埼玉事務所と第一倉庫の爆破を確認!」
「監視班から報告!神奈川訓練所の爆破を確認!」
「群馬第一倉庫、第二倉庫、事務所二箇所の爆破を確認!」
よしよし。
順調に罠にかかってるわね。
「爆発の規模は?」
あたしは、傍にいた隊員に尋ねる。
「はっ!私の担当した施設では、施設敷地内を吹き飛ばす威力に設定してあります。他の施設も、それに準じているものと思われます。」
「ありがとう。」
上等だ。
さて、あちらさんがどう出るか、楽しみだわ。
「全監視班に伝達!監視を終了し、拠点に帰還しなさい。」
「……了解。そのように伝える。」
「了解っと。」
『えー、先ほど、この付近で爆発が確認されました。あちらが現場となっている模様です。』
朝のニュースを見て、思わずぽかんとしてしまった。
『あーっと、こちらが爆発の現場のようです。おおっと、あちらから来るのは、自衛隊でしょうか?こちらに来て……現場の封鎖を始めました。スタジオに戻します!』
『えー、ただいま入ったニュースによりますと、関東圏内各地で爆発が起こっているとのことです。えー、新しいニュースです!先ほど群馬のほうで、新たに爆発が――』
「………どういうこと?」
朝からお兄ちゃんたちの姿が見えないと思っていたら、こんなニュースが流れ込んできたのだ。
そりゃ戸惑う。
朝、嫌な夢を見て、汗をびっしょり掻いてしまった私は、シャワーを浴びるついでに、お風呂にしっかり浸かってしまった。
朝は寒かったんだもん。
そのままお風呂でうっかりまどろんでしまい、気がついたときには朝の七時を過ぎていた。
「各所の監視部隊から報告!地方拠点にも敵部隊、集結中!」
支部長室に、二人の伝令が飛び込んできた。
「分かったわ。各所に通達!」
あたしがそう命ずると、二人は姿勢を正し、あたしの命を待つ。
「作戦開始!」
午前六時十三分。
決戦が、始まった。
あたしがするべき事は三つある。
一つ、この拠点の防衛。
二つ、敵本陣の割り出し。
三つ、敵本陣への奇襲。
霧崎の殺害については、今は考えない。
居場所が分からないのだ。
考えても仕方ない事は、考えない。
「総員戦闘配置!フェイズ1、開始!」
ゆりが端末に向けて、命令を叫んだ。
すると、ほどなくして、外から銃声が聞こえてきた。
「まずは、第一のヤマだな。」
「ええ。これでどこまで時間を稼げるか、ね。」
フェイズ1とは、つまりは施設外部での防衛戦らしい。
このビルの外、外部とはビル郡によって隔絶された四角い空間には、今はバリケードが張り巡らされている。
さながら迷路のように。
その空間を利用して、敵を足止めするらしい。
「しかし、通路を壊されたらどうするつもりなんだ?」
「そのためにオレたちはここにいるんだろうが。」
そう、この部屋にはモニターがある。
上から多数のカメラによって外部の状況を把握し、必要に応じて指示を出す。
まあ、指示を出すのはもっぱらゆりで、状況の確認はほとんど煌がやるから、俺はあまりやることがないのだが。
この部屋には、俺と、煌と、ゆりしかいない。
他の連中は、別の仕事をしている。
「よし、今のところおおむね好調ね。」
確かに、モニターを見る限り、戦闘はこちらが押している。
敵は迷路の形を把握していないから、奇襲もし放題だ。
もし押されたとしても、すぐに隠れて体勢を立て直せる。
だが。
「数が、少なくないか?」
「そりゃそうよ。あちらさんは、関東支部の全ての施設を同時攻略してるのよ?全部隊を集結させているうちとは、わけが違うわ。」
「そんなものなのか……。」
「まあ、しばらくしたら、向こうも罠に気付いて、こっちによってくるだろうがな。」
それまでにどこまで削れるかが勝負だ、と煌は言う。
「もしもし?無線の傍受状態はどう?」
『良好です。しかしながら、現在のところ目ぼしい情報はありません。』
気付いたら、ゆりがどこかと通信していた。
会話の内容から察するに、どうやら通信室とだろう。
通信室では、こちらの情報を集約、伝達しているだけではなく、敵方の無線の傍受も行っている…らしい。
どうやっているのかは知らないが。
「………ええ。ええ。分かったわ。今からそっちに行くわ。」
そう言い終えて、ゆりは無線を中断する。
「煌、ちょっと通信室へ行ってくるわ。指揮は任せる。とりあえずは防衛に専念して頂戴。作戦の変更は随時連絡するわ。」
「了解。」
ゆりが席を立ち、部屋から出て行くと、煌がそれに代わって支部長の席に着き、モニターを眺め始める。
「西-Bの区画にいる部隊、西-Dの壁が破られるぞ!奇襲に注意しろ!」
『了解。宇田川班、西-Cに移動します。』
「北側は3班でいい。2班ほど西の応援に回れ。」
『了解。草野班、西へ回ります。』
『二ノ宮班、西へ回ります。』
「南-A付近の班!南-AからBにかけて制圧されかけてるぞ!戦力を集中して押し返せ!」
『了解。栗田班回ります。』
『小城班、応援に回ります。』
『赤坂班から指揮者へ伝令!野々村班の数名が負傷!野々村班は撤収!応援を回してください!』
「場所は?」
『東-B付近です!』
「分かった。すぐに送る。待機中の班に告ぐ!二班ほど東-B付近へ向かえ!敵に制圧されている可能性もある。注意しろ!」
『緊急伝令!北-AからDの区画の壁が壊滅状態!制圧されます!増援を!』
「北が破られる!待機中の班、北側の応援に回れ!」
………すごい。
ゆりの時も思ったが、すごい。
何が凄いって、マップも見ずに、複数台あるモニターをチェックしつつ、正確に指示を飛ばし、突発的に入ってくる無線にも対応している。
今までゆりや煌が指揮に回っているのは見たことがなかったが、こいつら、こんなに凄かったのか。
「………チッ。仕方ない。特殊班、北へ回れ!ミサイルの使用を許可する!北-AからDの区画付近の奴は後退!特殊班はその区画へ!取り返せ!」
『野田班了解。北区画の制圧へ向かう。』
「………はぁー。」
そこまで指示して、煌は溜息を吐いた。
「これでどうにかなるか……。」
煌が呟いた通り、それ以降は、通り一遍の報告くらいで、特に急を要する報告は入ってこなかった。
「で?今のところ、何か分かった?」
あたしは、通信室で、敵の情報を探っていた。
「……今のところは特に。」
「チッ。敵の本部に関する情報は、どんな小さなものでもいいから漏らさないでよ。」
「分かってるよ。」
敵の本部の場所は、アークの情報網を以ってしても、謎のままなのだ。
裏組織の本部なんて場所を構えられる場所なんて限られているはずだ。
だが、それらしき場所をどれだけ探しても、本部らしきものは見つからない。
「一体どこに居を構えてるのよ………。」
それが見つからなくちゃ、奇襲も何もあったものではない。
「……ゆり。監視班から報告。」
「なに?」
「……千葉倉庫のほうで、爆発を確認した。」
「現在時刻は?」
「七時十七分三十二秒。」
「ありがとう。」
「ゆり!埼玉のほうからも報告!埼玉事務所と第一倉庫の爆破を確認!」
「監視班から報告!神奈川訓練所の爆破を確認!」
「群馬第一倉庫、第二倉庫、事務所二箇所の爆破を確認!」
よしよし。
順調に罠にかかってるわね。
「爆発の規模は?」
あたしは、傍にいた隊員に尋ねる。
「はっ!私の担当した施設では、施設敷地内を吹き飛ばす威力に設定してあります。他の施設も、それに準じているものと思われます。」
「ありがとう。」
上等だ。
さて、あちらさんがどう出るか、楽しみだわ。
「全監視班に伝達!監視を終了し、拠点に帰還しなさい。」
「……了解。そのように伝える。」
「了解っと。」
『えー、先ほど、この付近で爆発が確認されました。あちらが現場となっている模様です。』
朝のニュースを見て、思わずぽかんとしてしまった。
『あーっと、こちらが爆発の現場のようです。おおっと、あちらから来るのは、自衛隊でしょうか?こちらに来て……現場の封鎖を始めました。スタジオに戻します!』
『えー、ただいま入ったニュースによりますと、関東圏内各地で爆発が起こっているとのことです。えー、新しいニュースです!先ほど群馬のほうで、新たに爆発が――』
「………どういうこと?」
朝からお兄ちゃんたちの姿が見えないと思っていたら、こんなニュースが流れ込んできたのだ。
そりゃ戸惑う。
朝、嫌な夢を見て、汗をびっしょり掻いてしまった私は、シャワーを浴びるついでに、お風呂にしっかり浸かってしまった。
朝は寒かったんだもん。
そのままお風呂でうっかりまどろんでしまい、気がついたときには朝の七時を過ぎていた。
作品名:表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)― 作家名:零崎