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「姐ご」 4~6

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 「工藤はん、
 盛り返してきましたなぁ。
 御見事、さすがです」

 厩舎へ、その後の様子を見に来た総長と姐ごです。
エアーホースワンは、登録地(競馬場)を移動することなく、
工藤厩舎の所属馬として、残されたその後の余生を送ることになりました。



 「高崎競馬の最優秀馬だもの。
 いまさら余所に移って苦労させては可哀想です。
 そう思うでしょう、ねぇぇ・・・・
 ”ごくどうちゃん”も。」


 工藤に語りかけているのではなく、
それはすべて、連れの総長に言い聞かせているような
姐ごの口ぶりでした。
競走馬を購入してレースをさせるためには多額の費用がかかります。
競走馬にかかわるすべての費用を出してくれるのが馬主です。



 競走馬を預かって、調教と管理をするその最高の責任者が調教師です。
その下には、日々馬の世話を担当する厩務員や獣医、装蹄師などがいて、
レースで騎乗する騎手たちがいます。

 一頭の競走馬には、これほど多くの人たちが関わっています。
獲得賞金の有無に関わらず、馬主は、
毎月決まった育成料「かいば代」を払います。
地方競馬の場合は、一頭当たり、18万円から20万円前後と
いわれています。


 これが厩舎の主な収入源です。
この中から育成にかかる諸費用や、働く人達の人件費などが支払われます。
したがって総長は、すでに引退をして今後賞金を稼がない
エアホースワンのためにこの先、毎月20万円ずつを
支払い続けることになるのです。


 「おい、工藤、
 馬の平均年齢はどのくらいだ。 俺よりも長生きか? 」


 「ご心配なく総長。
 あとは長く生きても、せいぜいが15~6年です。
 もう一人愛人をつくったと思えば、
 安いものです」



 「あらぁ、聞き捨てがなりませんねぇ。
 お馬を辞めて、
 あたし以外に、もう一人愛人を持つつもり?
 いけすかないわね・・・・
 ねぇ・・そうちょうちゃ~ん」



 姐ごが、人目を気にもせず悔しそうに身をよじります。
もちろん演技なのですが、総長にはこれが一番効果的なことを、
当の姐ごのほうが、よくよく承知をしているのです。



 「やめろ。
 お前も!くねくねするな。
 若い衆が笑って見ているだろうが・・・
 わかった、わかった。
 お前の大事なエアーホースワンだ。
 じゃあ工藤君、そういうわけだ、
 何事につけてもよろしく頼む。」


 おい、飼いば料と引っ越し手当ても弾んでおけと、若いものに言いつけます。
にんまりと笑う姐ごの肩を抱いて、総長は黒いベンツに消えました。


(7)に続く
作品名:「姐ご」 4~6 作家名:落合順平