おいでおいで ―CALL CALL―
「あ、居た。ねーねー市ちゃーんっ!!」
ふと、遠くから(音楽室の中から聞こえて来る声と全く同じ)声が、我の名前を呼んでいる。
「え?」
我に返る自分。はっとして呼び掛けられた方を見れば、月御姉様が反対方向の廊下から此方に駆け寄っていらっしゃる姿が視界に入った。
(ならば、この腕は)
そう思って我がもう一度扉へ振り返ると、
「ちっ」
老婆の様な嗄れた声の、悔しげな悪態が聞こえたかと思うと。腕はするりと部屋の中へ引っ込み、ぱたん。扉が閉まった。
(今のは、何?)
幾らじいと見詰めても、今目の前にあるのはしっかり閉められた扉のみ。
(もしもう少し近付いていたら)
(そして、あの腕に触れていたら)
あの闇の中のモノに『喰われて』いたのだろうか。
想像して、今更ながらぞっとする。
扉を、試しに開けてみる気は起きなかった。
作品名:おいでおいで ―CALL CALL― 作家名:狂言巡