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欠陥一輪車の一人舞台

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飛行機を降りて外に出た瞬間、身体を包みこんだ、あの熱気は忘れられない。
 日差しはまるでどう考えても夏のそれで。とても今、暦の上で真冬だとは信じられない。

「あ……つい……」

 私は手にしていた帽子を深くかぶった。
 飛行機に乗る前は日よけ帽子や日傘を持っていくことを、おかしく感じていたけれど。実際この日差しを受けてみると、おかしいなんていっていられないことを強く実感する。
 地図をショルダーバックから取り出し、とりあえずどこかで自転車を借りようと歩き出した。ホテルから『目的地』へと続く道は、ずっと上り坂。容赦ない冬の太陽を軽く見上げ、帽子のありがたさをしみじみ感じる。

「確かに、こんな日差しで、帽子無かったらしんじゃうって……」

 坂を上がると、一軒の民宿。壁にレンタサイクルと書いてある(この島は台風がよく通過していくので、大きな看板は外に掛けられないのだそうだ)。すぐに見つかったことに安堵しながら、自転車を借りる。
 夕食の時間まで五時半。いろいろ見積もって四時まで借りることにした。サドルの高さを調整して、漕ぎ出す。
 頬に受ける風は爽やかで、やはり、真夏とは違うものの。頭上に広がる澄んだ空と太陽は、何度見ても冬のものには感じられない。

「やっぱり……違うんだ」

 ひとりごちながら、軽快に自転車を走らせた。

作品名:欠陥一輪車の一人舞台 作家名:狂言巡