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ひとりと、ひとつ。(S-03M)

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 今日もまた退屈な一日が始まる。
 いつも通りの光景。だけど、今日はクリスマスとは書かれていない旗を持って店の前に立つ。
 隣のケーキ屋はもう開いていたけど、店先にクリスマスケーキを売る姿は無かった。
「なあ。ケーキは売れ残り安くなんだけど、ケータイの売れ残りって安くなんの?」
 声を掛けられて振り返ると、若そうな男が近くに立ってる。俺とそんなに背格好は変わらない、見た感じ大学生のようだ。
 ……ん?
「お前、昨日の?」
「そうそう。なんだよ、サンタの衣装来てねーから分かんねーか?」
 今日は黒いコートにジーパンを履いていて、昨日の格好とは違うけど、同じ人間だということは声と顔で分かる。
 一瞬、ついに故障して幻見たかと思った。売れないうちから故障とか悲しすぎる。
「あ、いや。……ああ、ええと、ケータイはモノによるけど、夏頃出たのはちょっと安いかも。買うんだったら店の中入って見れば……」
「んや、お前で」
「は?」
 きっぱり言い切った相手に、俺は耳を疑った。いや耳っていうか、音声認識装置がおかしくなったのかと思った。
「お前は買えねーの?」
「俺?! そりゃ……買えるけど、結構前の機種の売れ残りっつーか、そんなんでいいの?」
 しどろもどろになる俺の腕はガッチリと掴まれて、ずるずる引きずられるように店に連れ戻される。
「じゃあ、余計安くなりそーじゃん。お前がうっかり売れたら嫌だから、わざわざ開店前から来てんだぞ、俺は」
「ええ? まじで?!」

 そんなわけで俺は、1日遅れでサンタクロースのプレゼントになった。