ラストプレゼント
あちこちでセミが鳴き喚き、雲ひとつ出てこない暑い日が続きました。
遠くからやってきた嵐がうなりながら、海を通りすぎていきます。つめたい波に打たれても、ピアノは、ひっきりなしに歌っていました。
ようやく涼しい風が吹く秋がやって来ました。
おかしな音しか出せなかったピアノは、最後の力を振りしぼって、
ポロン、ポロロン……ポロン、
ポロロン……ポロン、ポロロン……。
とてもとても美しい音で歌いました。
それは海に落ちたピアノが、大切な人に贈る、最期のプレゼントだったのです。
ピアノは歌いながら、小さく小さく、海の底へ沈んでいきました。
そしてそれきり、海から音楽が聞こえてくることは、二度となかったそうです。