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さかなととり

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それをベンチの隣に座ってフムフムと相槌を打ちながら聞いていた誓は、さかなの話が終わるのを見計らってかゆっくりと立ち上がった。
そして、そのまま自分が先ほど放り投げた自転車の所へと行くとそのまま、近くの駅の壁に立てかける。
さかなは、そんな誓の静かな動きを眺めながらぼうっと考えていた。
この目の前の小学校の先生は、何を考えているのか全くわからない。
先ほどまで諦めていた自分がなんだか意味もなく復活しているのを感じていた。

なんか、変だけどこの人って人を落ち着かせるのがうまい。

誓はさかながそんなことをかんがえているとは露知らず立てかけた自転車を思いっきり倒す。


「わっ!!!すみません!!!!」


前言撤回・・。

誰を相手に謝っているのかは知れないが、誓は自分の背後で倒れた自転車の倒れた音にビビって飛び上がるくらいだ。
もう、自転車はどうでもいいと言う感じで、表情を先ほどの笑顔をからがらりと真剣なものに変えると、さかなの目の前で腕を組む。
少しだけ考え込む仕草を見せたものの、すぐにそのまま交番の中へと入っていく。
ベンチからその様子を見ていたさかなはその後を追いかけるべく立ち上がり交番の中を覗くと、中にいた誓はその部屋の中心にある受話器を上げるところであった。

受話器を上げてから数秒で何処かに繋がったのか、誓はその受話器の先にいる人間と話し出す。
鳥居誓は、その人物にも面識があったのか受話器を耳に当てながら相手には見えない挨拶を繰り返している。


「カバンの中には、何があったんですかね?」
「あ、と、服が数着と住所の紙と携帯電話・・・、お財布です。」


伝えた事を相手にそのまま伝えている誓。
それを聞いて、さかなはまた思わずその場に体育座りをして落ち込んでしまう。

そうだ、お財布が・・・、そこにはあった。
今は、一文無し。
東京に帰るにしてもお金が無ければ帰ることもできない。

・・・・なんて付いてないんだ、俺。
彼女には振られるし、鞄は無くすし、こんなとこでビショビショで一文無し。
厄年かなんかか・・、はあと大きなため息。

「・・・さかなさん、大丈夫ですか?」

いつのまに電話は終わっていたのだろうか?
さかなはすぐ近くに誓の気配を感じる。
誓はすぐ近くに座り込んでいるのか俯いたままのさかなにも彼の体温が伝わってくる。

「・・・。」

でも・・・・こんなとこで、見ず知らずの人間に心配なんてさせたくないが、もうそんな事を言っている場合でもない。
さかなはそのまま自分の頭を横に振る。
大丈夫じゃないことを表すようにブンブン振られる頭。
子供みたいな行動だと言うのは重々承知である。


「大丈夫じゃない、ないですよね・・。」
「・・・・。」


ん〜と言う呟きと共に、思わず考え込む誓。


「困りましたね・・・。」


その間もさかなの頭の中には、此処に来るまでに掛かったお金はいくら掛ったのか。
電車代だけでもかなり掛った。おおよそ3万円ちょっと?
なくした財布の中にはそれほど入ってはいなかったが、銀行のカードも。


「・・・っ。」


ショックを受けているさかなの肩をぽんと叩いた鳥居の手はすごく大きくて暖かく頼りがいがあるように思えた。
その手の温もりに顔を上げるさかな。


「っ?!」


そんなさかなの動きに思わず仰け反ってしまう誓。
それはそうだろう、顔を上げたさかなの本当に数センチほどの所に誓の顔があった。


「ごめん。」
「あ、え、こっちこそすいませんっ!」


勢い良くまた頭を下げようとする誓のオデコを押さえてその動きを止めるさかな。


「悩んでいてもしょうがないんで、」
「はい、」
「ここらへんで野宿できるような場所あります?」


さかなは、少し自分の置かれたシチュエーションに込み上げてくる笑いを押さえきれずにいる自分がいるのに気が付いた。

今考えたら明らかに面白い状況である。

日本と言う自分が生まれ育った場所でなんで、野宿とか?訳がわからん。
誓はさかなのつぶやいた言葉に一瞬真剣に考える仕草をしていたが、すぐにまた先ほどのふにゃりとした笑顔を浮かべた。
このふにゃりとした笑顔をしたとき、この誓という男はすごい事をしゃべりだす。

「・・もし、さかなさんが良かったら俺の部屋きますか?」
「は??」

もちろん、鞄が見つかるまでですがと付け足す誓の一言に、思わず動きを止めるさかな。
住所をなくしてしまいもう、この場で野宿だと覚悟を決めていたところに助け舟はいいのだが。
鞄が見つかるまでとかそういうのはどうでもいいとして、この人は人を疑うことをしらんのか?俺がもし殺人犯で、警察から逃げてるとしたら一発で殺されてる。
相手の身元に疑う余地はない、誓は小学校の先生である。


「・・・あ、でも少し考えたほうが良いんじゃないですか?」


一応、相手を嗜める事は忘れない。
だって、そんな初対面で知らない人を泊めるなんて抜けてる所の騒ぎじゃない。


「なんでです?」


少し眉間に皺を寄せているさかなの顔を、首を捻って誓は見ている。
人を疑わない人種としても、これは疑わなさ過ぎる。
さかなは、心を鬼にして言うしかない。
これはまた小学生に知らないおじちゃんには飴をもらうなっと言っているのと同じ思いである。


「え、・・う、俺がもし、悪い奴だとしたらどうすんです?」
「悪い人なんですか?」
「いや、・・・。」
「生徒の命の恩人をほったらかしにしたら、それこそバチがあたりますよ。」


そういうと、はははと軽く笑う誓。
そりゃ、そうでしょうけどね。
これは、田舎の人間の考えからなのか??
さかなは、その場に座ったままではなんだったので、立ち上がる。


「で、さかなさんは、旅行ですか??」


同じように誓もよっこいしょと言いつつ、先ほど倒れた自転車の元へと歩くとそれを立て直して少し曲がってしまったサドルに手をやる。


「りょこう・・・・、」
「ええ、旅行ですかねぇ?」


誓はポンポンと直したサドルを叩きながらさかなへと目を向けた。
そう何を隠そう、これは旅行かも知れないが、旅行ではない!!!
人探しだ!!!ありがとう、鳥センセイ、あんたのお陰で俺は自分の道を見つけました!
さかなは、急に目を輝かせて誓の腕を無理やり取るとそのまま自分の手を重ねた。
またしても、がちゃんと音を立てて倒れる自転車。
誓も切れ長の目を丸くして自分の手を握るさかなの手と、さかなの表情を見比べている。


「鳥センセイ!!」
「・・俺は、鳥居誓です。」
「・・誓さん!!」
「はい?」



つづく・・・
作品名:さかなととり 作家名:山田中央