きのう・きょう・あした
風呂から上がってきた。そうして、パソコンの電源をもう一度入れて、先ほどと同じく北九州版の
街角の話題コーナーの「きのう、きょう、あした」を再度聴いてみた。
『 大分県別府市で筋ジストロフィーという難病と闘う青年が書いた詩に、北九州市のプロの
ミュージシャン渡辺ともこさんがメロディをつけ、このほど曲が完成しました。
大石さんは10才の時から入院生活を送ってきましたが、先日実家のある大分県玖珠町で
開かれた曲のお披露目コンサートでは特別に外出が許され、渡辺さんとの感激の対面が
実現しました。二人は病気や障害と闘う一人でも多くの人達に聴いてもらいたいと話してい
ます。
では、この曲をご紹介しましょう。「きのう、きょう、あした」。
昨日よりも今日
今日より明日
今日は昨日の
悲しみを思い出に
そして明日を
輝く日にしてくれる
昨日よりも今日
今日より明日
昨日がいい日だったと
言う為に
明日に夢を
叶える為に
昨日よりも今日
今日より明日
朝の光に包まれたら
今日一日を頑張ろう
夕焼けに包まれたら
精一杯生きたと
思えるように・・・ 』
(う〜ん、やっぱり気になるな。大石さん? 渡辺ともこさん? 別府市? 筋ジストロフィー?)
布団に入ってからも珍しく寝付けず、あのきれいなメロディーと、いろんなキーワードが頭の中を
グルグルと回転して止めどもなく流れて行くのである。
(そうだ、明日NFKにメールで問い合わせてみればいいんだ・・・)
メーリングリストと言う仕組みは大変に便利なもので、ある特定のアドレスにメールを送ると、その
メーリングリストに参加しているメンバー全員に同じ内容のメールが送られるようになっているのです。
そう決めてしまうと、一安心。いつも通りぶざまな寝姿のまま、深い眠りについたのでした。
「あ〜た! 8時よ! 早く起きて!」
いつも通りのダミ声に楽しい夢の一時もうち破られ、日曜日の朝の目覚めがきました。
(う〜ん、きょうも無事目が覚めたか・・・・)
歳を重ねるごとに正彦は、生きている事の不思議さを感じているのです。
二人の子供達も大学生と高校生になり、家族揃っての行動もほとんどなく、日曜日といっても、
それぞれがバラバラの一日を過ごすようになっています。2週に1回程度は、食糧やら雑貨の
買い出しにスーパーに行く程度が、おきまりのコースでしょうか。
朝食を済ませ、歯を磨きパソコンの前に座った正彦は、もう一度気になる「きのう、きょう、あした」
の放送を聴きました。
(きのうは、ちょと興奮状態だったから、あんな風に感じたけど、冷静になったら違うかもしれない・・・)
そう思ったのです。しかし、曲の紹介の後に流れてくるメロディーを聴くと
(いや、逆だ、この曲は聴けば聴くほど良くなっていく・・・詩の意味が少しずつ頭に残るように
なれば、またメロディーも新鮮に聞こえてくるから、不思議だなぁ・・・やっぱり、メールを書こう・・・)
メールのソフトを起動してから、画面に向かってしばらく考えこんでいました。
(いままで、ほとんどメールを出したことが無い自分の問いかけに、誰か答えてくれるのかな?
第一、この曲のいきさつを知っている人がメーリングリストのメンバーにいる保証もないのに・・・
まぁ、いいか、下手な考え休むに似たり、だ・・・)
そう、思った正彦は比較的慣れた手つきで問い合わせの文章を打ち始めた。
コンピュータの学校は出ていなくて、プログラムも全て30才を過ぎてから独習でマスターしてきた
だけに、軽妙なタッチのキーボード裁きとはいかないが、正彦と同年代のいわゆる「団塊の世代」
といわれる多くの人たちの中では、慣れた手裁きといえるかもしれない。
『ずっとROMしてる中里といいます。
今回のKISの放送は楽しく聴かせて頂きました。その中で北九州サイトの
「街角の話題」のなかの一番下の項目「きのう、きょう、あした」には感動
しました。
この件はもっと詳しく知りたいのですが・・・・
○北九州市の歌手「渡辺ともこ」さんってどんなかたですか?
○あれを歌ってるのはだれですか?
○CDは出てるのでしょうか(アルバム・シングル)?
非常に親しみのあるメロディーに、メッセージが込められていて素晴らしい
曲だと思いました。もっともっと、多くの人に知って貰いたい曲です。
大石たけしさんや、渡辺ともこさんの写真とか、紹介とかもあったらいいですね
・・・・・・・・ 』
ここまで、書き終わると送信のボタンを押して、メールを送りました。
このころの正彦にとって、メールはそんなに生活の深いところで関わっているわけでないく、
普段は一日1回夕食後に、沢山あるメールを一通づつ開いて、興味のありそうなものは全文読み、
あまり関係なさそうなメールは読み飛ばしていくだけで、ほとんど書き込みはしていませんでした。
まだ、このメーリングリストのメンバーが何人いるのか、どんな人がいるのかも、全く知らないのです。
今日は午前中にメールを開けて、書き込みをしたりして、それまでのメーリングリストとの関わりとは
ちょっと違う、何かを予感させる出来事でした。
(さぁ、なにか答えが返ってくればいいけど・・・)
あまり期待しては、期待がはずれたときの失望も大きいので、少しだけ期待しておこうと心にいい
聞かせて、パソコンの電源を切ったのです。
「あ〜た、スーパーに行くわよ! お米がもう無いし、お酒もないのよ!」
「そうでっか・・ 今からならすぐ出れるから、いいけど・・・」
今日一日は、大好きなマライア・キャリーのビデオでも見ながら過ごそうと思っていたのですが、
現実の声には勝てずに買い物に行くこととしました。お酒がもう無いという一言には、夕食に晩酌
出来ない悲劇を想像して、何はおいてもお酒を買ってこなくてはと、思ったのです。
(マライア・キャリーは午後から見るか・・・)
1年365日の内、364日は晩酌してる勘定になるのですが、決して量は多くありません。
長男が、高校の修学旅行の時に買ってきてくれた、葵のご紋入りの徳利に一本で十分です。
普通の徳利より、若干大きめなので1.5合くらいは入るのですが。
(あ〜、休肝日も必要なんだけど・・・酒は百薬の長ともいうし・・・)
ぶつぶつ、いいながらスーパーの買い物に付き合っていました。
「あんたも、年取ったね。 さっきから一人で、ぶつぶつ、ぶつぶつ、言って」
「えっ、そうか? なんにも言ってないけど・・・」
(スーパーの店内で商品を見て回りながらも、やっぱりあの歌の事が気になっているのかな〜・・・
作品名:きのう・きょう・あした 作家名:中原 正光