スターブレイダ―ズ
「何を言っている、そんな物お前の活躍に比べればそんな物どうでも良い、お前はスクレイアの…… いや、私の誇りだ!」
セドルはシーラを力強く抱きしめた。するとシーラも祖父の腰に手を回した。
「はい、お爺様。」
祖父の胸の中でシーラは頷いた。
その様子を見ていたビアンカの横のホークがため息混じりに呟いた。
「お前には本当に苦労をかけたな。私だけではここまで来る事はできなかっただろう」
「何言ってるのよ、まだそんな年じゃないでしょう?」
「はは、一本取られたな…… 死んだ母さんにそっくりだ」
「私は私よ」
互いに微笑する親子の間に沈黙が流れるとホークはビアンカに自分の願いを言った。
「これからも頼むな。みんなを導いてやってくれ」
「ええ、父さんと一緒にね」
熱い絆で結ばれた父と娘は手を繋いだ。
最後にプロメテスがチサトの前にやって来た。
「どうしたのプロメテス、何かあったの!」
チサトはプロメテスにスター・キャッスルで待っているように言い聞かせた。
しかしプロメテスは留守番などしたくなく、相棒であるチサトと一緒に居たいと言って来た。
「そっか…… そうだよね。プロメテスだってスター・ブレイダーズの一員だもんね。」
チサトはその場に膝を付いてプロメテスを抱きしめた。
「私達これからも一緒に戦おうね、プロメテス」
チサトが微笑むと『まかせろ』といわんばかりにプロメテスが手を振った。
仲間達が縁のある者達との会話にはずむ中、1人取り残されたレナは少し寂しい気持ちになった。
本来なら両親かハルが駆け付けるのだろうが、両親は実家で緊急のオペが入り、ハルも研修で出かねなければならなくなった。
しかしふと出口の方を見ると見覚えのある少年が自分を見つめていた。
(カイト君?)
するとレナの視線に気付いたのかカイトは背を向けて部屋を出て行った。
「ちょっとごめんなさい!」
「おい、レナ?」
レナは会場から飛び出すとカイトの後を追った。誰もいない廊下でカイトを呼び止める、
「待ってカイト君!」
「レナちゃん……」
カイトはまともに顔を合わせられなかった。
シンジを挑発し、スター・ブレイダーズを馬鹿にして自信満々に勝つと言ったのに結果は敗北、これでは何を言っても言い訳になるのは自分自身が1番分かっていた。
「完全に負けたよ、シンジ君に…… いや、君達にな……」
2人の力と想いが1つになる、つまりレナの答えは決まったと言う事だった。
最早聞かなくても分かる、後悔はしていないがやはりショックを隠しきれなかった。
「レナちゃん、僕はね…… 君の事が好きだった」
「ええっ?」
レナは真っ赤になって話を聞いた。
シンジが2年前にレナを泣かせた事、それをきっかけに変わろうと思った事、心の中の全てを口に出した。
「ここだけは変われた。以前なら何も言えなかったよ」
「カイト君、その事なんだけど……」
レナはカイトに言われた事を思い出した。
「シンジはお父さんが死んで高校中退して、妹のチサトちゃんを養う為に慣れないアルバイトをしなければならなくなったんだけど、バイト先の連中からお父さんの悪口を散々言われて頭にきて喧嘩をしてアルバイトをクビになっちゃったのよ」
その後も様々なアルバイトを探したのだがロクに相手にしてもらえず、地元で暮らして行くのは無理と考えたシンジは月へ引っ越す事に決めたのだった。
「それでね、私も着いて行きたいって言ったの」
「えっ?」
「心配だったから、でもその頃のシンジは心に余裕がなくなって、私もついムキになってね…… でも最後謝ってくれたのよ」
その夜、シンジから電話が掛かって来た。それはギコチ無いながらも謝罪の言葉だった。
その後レナも謝ったが基本的に素直に慣れない2人は再び喧嘩になってしまったと言う。
「そしてその2年間は電話や手紙で連絡取り合いながら、私は必死で勉強して月の大学に行く事になったの、再会したらまた喧嘩しちゃったけどね」
レナは苦笑する、
「そうか、やっぱり僕が入り込める隙間は無かったか……」
「本当にごめんなさい……」
するとカイトはレナを止めると鼻で笑った。
「もういいよ、おかげでスッキリした」
2人に刹那の沈黙が流れる、すると先に口を開いたのはレナだった。
「……カイト君、これからどうするの?」
「ん、そうだな…… 自分でチームでも作ろうかな、元々SSBが大好きだったし」
カイトは勝手な行動をし、事故とは言え仲間を攻撃してしまった事で責任を取りブラッディ・ムーンを辞めてきたと言う、
監督や仲間達は事情を聞いて納得してくれたがカイトのプライドが許さなかった。
「全てをもう一度やり直すつもりだ。そして君達に負けないチームを造るってみせるよ」
すると遠くの方からシンジの声が聞えて来た。
「レナーっ!」
「シンジ?」
レナは振り返る、するとカイトはレナから離れた。
「僕はもう行くよ、次に会う時は負けないからね」
「カ、カイト君っ?」
カイトは走り去る、するとそこへシンジがやって来た。
「何やってんだよ、記者会見始まるぞ」
「あ、べ、別に……」
「ふ〜ん…… あ、そうだ」
するとシンジはズボンのポケットから白いラッピング用紙に赤いリボンを十字に巻いた細長い箱を取り出すとレナに渡した。
「これ…… 何?」
「何って、お前今日誕生日だろ? 覚えて無ぇのか?」
その言葉にレナは目を見開く、すると嬉しさのあまり目に涙があふれ出てきた。
「お、おい…… 泣く奴があるか!」
「べ、別に泣いてないわよ…… これは心の汗よ!」
「目から汗が流れるか、ベタに誤魔化してんじゃねぇよ!」
「うるさい、アンタこそその容量の少ない頭で私の誕生日覚えてた事が奇跡じゃない!」
「んだと…… って、まぁ、そうなんだけどな……」
「えっ?」
レナは眉を細める、
実を言うとシンジはレナの誕生日をすっかり忘れていてビアンカの電話で思い出したのだと言う、
そして一晩考えてインターネットで注文したと言う、だがそのまま渡すのも如何なるものかと思ったシンジは包装用紙とリボンを買ってビアンカに仕上げて貰ったと言うのだ。
「って事は何? ビアンカさんに言われるまでずっと忘れてたと?」
レナの肩は震えていた。
「まぁ、いくらお前でもこの世に生誕した特別な日だからな、勿体無いけど虫ピン一本でも奮発して買ってやらないと……」
「こぉの、大馬鹿野郎―――っ!」
するとレナの鉄拳がシンジの顔面に炸裂した。
シンジは風に吹かれた木の葉のように吹っ飛んで床に倒れた。
「テ、テメェ何しやがるっ?」
「馬鹿だ馬鹿だと思ったけど、ここまで馬鹿だとは思わなかったわよこの大馬鹿野郎っ! ううん、この超馬鹿野郎っ!」
「誰が馬鹿だ! って言うか『超』って何だ『超』ってっ?」
「大馬鹿の境界線を越えた馬鹿だから超馬鹿って意味よ、そんな事も分かんない訳っ?」
「馬鹿馬鹿言い過ぎだ! って言うか馬鹿って言う方が馬鹿だろうがこの馬鹿女っ!」
「馬鹿に馬鹿って言われたく無いわよ!」
2人の口論を聞きつけてか仲間達もやって来た。