スターブレイダ―ズ
第1話 復活の騎士
それから数年の月日が流れた。
ここは月面にあるサテライト・ベース、その居住区の1つのマンションの一室で1人の少年がガラス張りのテーブルの上に置いてある目覚まし時計のアラームなど気にせずに眠っていた。
少々癖っ毛の目立つ黒い髪に幼さを残しているが整った顔立ちに太い眉の彼は緑の生地のパジャマを着ているがまるで子供のように布団を蹴飛ばし、腹を出して鼾をかいて眠っていた。
彼の名前はシンジ・ゴウ、このマンションに住んでいる宇宙宅配便『諸星急便』で働く18才の少年だった。
すると部屋の扉を乱暴に叩く音が聞こえた。
「ちょっと、まだ寝てるの? 今日も仕事でしょう!」
今度は部屋の扉が開いて1人の少女が入って来た。
少女はテーブルの上のアラームを止めると少年の肩を掴んで揺すり始めた。
「ほら、とっとと起きなさいよ! アンタが遅刻するのは勝手だけどチサトちゃんの生活費どうするのよっ?」
「う、うう〜〜ん……」
しかし少年は起きなかった。
少女は頭にきて目を吊り上げると大きく息を吸い込み耳元で叫んだ。
「コラ、起きろーっ!」
「んぎゃっ?」
ソファーに寝ていたシンジは跳ね起きた。
そして目の前にいる少女の顔を見る、白い肌に青いショートヘア、大きな緑の目、赤いヘアバンドをした白のYシャツの上に緑色のベストと下には膝の丈が見えた青のミニスカートにニーソックス姿の少女だった。彼女の名はレナ・ハイド、幼馴染で月の大学コスモ・アカデミーの生徒だった。
「何すんだよ……」
「何すんだじゃないわよ、何時だと思ってるのよ? 仕事の時間でしょ?」
「ええっ?」
時計を見るとすでに午前8時5分、とっくに仕事に出なければならない時間だった。
「ヤバイ、着替えなきゃ!」
「きゃあっ! いきなり脱がないでよ!」
レナは両手で顔を隠した。
「だったら外でてろ!」
「言われなくてもそうするわよ!」
レナはシンジの部屋から出ていった。
「全く、いつもこれなんだから……」
部屋の外でレナはため息をこぼすとすぐ隣りのダイニングへとやって来た。
そこでは一人の少女が本を読みながらホットミルクとサラダとトーストの質素な食事を摂っていた。テレビがつけっぱなしになっていてニュースが流れている。
頭に白いベレー帽のような帽子を被り、肩まである黒髪のセミロング、青紫色の大きな瞳、人形のように愛らしい黒いフリルドレスのような服を着た少女はシンジの妹のチサト・ゴウだった。
「レナお姉ちゃん、お兄ちゃんはどうだった?」
チサトが尋ねるとレナは眉間に皺を寄せながらテーブルに座る。
「ようやく起きたわよ。いつまでも子供なんだから……」
「誰が子供だ!」
するとシンジがやってきた、そしてテーブルに座る。
「プロメテス。コーヒー煎れてくれ!」
するとチサトの隣りにいた彼女と同じくらいの大きさの、円柱型のボディに左手だけが取り付けられ、サーチアイに様々な色のボタンがある丸い頭部の天辺だけが平らなロボットがシンジの隣りにやって来る、半重力プレートを使用されて造られた家政夫ロボットのプロメテスだった。
プロメテスの腹部が開くとシンジはテーブルに置かれていた自分のカップをその中に差し入れた、するとホットコーヒーが注ぎ込まれると右の脇がスライドして焼かれたトーストが二枚飛び出すとシンジは2枚のトーストを重ねて頬張った。
「ちょっと、落ち着いて食べなさいよ」
「んな暇ねぇだろ! 急いで行かなきゃ遅刻だ!」
「それはシンジさんが早く起きれば済む事です、ってプロメテスが言ってるよ。」
チサトの横にプロメテスがやって来て左手を振った。
「チッ、本当に言葉分かってるのかよ?」
シンジは舌打ちをした。
チサトとプロメテスは兄妹のようなコンビなのだ。すると壁のモニターテレビに次のニュースが流れた。
「あ、SSBだ」
レナが言うとシンジは突然眉間に皺を寄せた。
『先日ブラッディムーンとスピア・ビーの試合が行われ、結果はブラッディ・ムーンの……』
「あっ」
するとテーブルのリモコンを手に取ったシンジがテレビの電源を切ってしまった。
「……行って来る」
目を閉じて不愉快そうに立ち上がるシンジをレナが止めた。
「シンジ!」
「お前も急がないと遅刻じゃねぇのか? プロメテス、後片付けは頼むぜ」
シンジはそのままダイニングを出ていった。
「シンジ……」
レナはそんなシンジの姿に胸を痛めていた。
シンジは車庫に向かい片隅に止めてあるスクーターに跨るとエンジンを動かし仕事場へと向かった。
シンジの仕事は宅配便の配達である、宇宙でも50を超える店舗を設ける諸星急便の月面第8支部がシンジの仕事場である。
「ちわーす」
シンジが建物に入ると先輩達が出迎えてくれた。
自分の席に座ると隣に座っている小太りで頭に菱形に輝く星の刺繍の入った帽子を被って新聞を読む中年の男に挨拶をした。
彼の名はロブ・チャーリー、シンジの先輩である。
「おはようございます、ロブ先輩」
「ああ、おはよう。今日は遅刻しなかったんだな?」
「こっちも生活かかってますからね」
シンジは苦笑いをする。
するとシンジはロブが見ている新聞にSSBの事が描かれているのが目に止まった。
「ん……」
シンジは表情を強張らせて席に座った。
「どうした?」
ロブは聞いてくる。するとシンジは目を泳がせながら答えた。
「いえ、別に……」
その後、シンジは分けられた荷物を持って仕事に出かけた。