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充溢 第一部 第二十六話

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第26話・3/3


「よし出来た!
 と言っても……ぶっつけ本番だから、怖いですね」
 ポーシャが泣かせるものだから、手元はすっかり狂ってしまい、工房はいつになく散らかってしまった。いつもは、片付けつつ仕事をするのに、今日に限っていつも通りの仕事が出来ない。
「大丈夫だ、お前とコーディリアの薬だ。間違いないよ」
 わざとらしく軽い口調で答えた――ここで、黙って薬を持って行かせては勿体ないなと、心に囁くものがあった。
 だって、あんな恥ずかしい台詞を言わせておいて、こんな淡泊な台詞で済まそうと言うのは、虫が良すぎる。
 最後に一つ……と断り、"東の悪い魔女"とは何のことかを聞いてみた。自他共に認める魔女だが、目の前で魔法を使った所なんて、誰も見てやしないのだから。
「ネリッサの居所がもうじき分かりそうなんだ。
 そこから戻ってきたら教えてやるよ」
 良いニュースと悪いニュースが混じっているような印象を与えた。最後の言葉は、どことなく不吉な事を予言しているような言い方ではないか。さっき、"最後に"と付け加えた自分を責めた。
「儂は約束を果たすぞ。嘘は吐くがな」
 こんな時にこそ、平然としている。その笑顔は、ちっともこちらの心配をぬぐい去ってくれない。なおも噛みつくと、他の魔女が火炙りにされたのは、自分のような能力を持っていなかったからだと言う。そこには、良いも悪いもなく、力の問題だと説明してくれた。
「部屋を片付けておいてくれ。
 お前にはいつもの顔をして欲しいからな」
 これから買い物にでも出かけるかのような顔をして、ポーシャは工房を後にした。
作品名:充溢 第一部 第二十六話 作家名: