充溢 第一部 第二十六話
第26話・1/3
ポーシャは深刻そうな顔をしているが、何も話さないでいてくれる。
話せば自分が暗号解読どころでないと言うことを知っているからだ。
何はともあれ、仕事をいち早く済ませなければならない。彼女はそれを待っているのだから。
暗号の断片は随分と繋がり、大きな断片――その候補がいくつか見つかった。しかし、断片は断片である。
これを完全な鍵にするには、これを補完しなければならない。
正規分布表や各種無理数、定数……母の使ったノートや文献からそれらしいものを見つけ、突き合わせる。しっくり来ない。
「これは何のノートだ?」
ポーシャの言葉でひらめいた!
これは42番目の留出液だ。これは融点だ……実験に用いた物質の物性値だったのだ。
ここまで証拠が揃えば殆ど間違いない。これはやはりフランチェスカを救う為の研究だ。
作品名:充溢 第一部 第二十六話 作家名: