充溢 第一部 第二十五話
第25話・1/2
殺された子爵と、茶葉の件で接触のあった貴族の情報が一堂に会する。石造りの殺風景な会議室。長机の前に騎士が並ぶ。
朝も早いというのに、脳みそをフル動員させられるかと思うと気が重たい。
書類を開き、二三読むと、ため息を吐く。
「よくそんな話を聞き出せるな」
「簡単だ。良く喋るからな」
ポーシャは飄然としているが、大評議会の議員がそんなに簡単に喋るはずがない。まともな方法で口を割らしたとは、とても考えられない。
頭を抱えた。以前、公爵がだらしなく頬を緩ませた顔で話しかけてくるから何かと身構えたが、魔女との付き合い方に関する指南だった。
指南と言っても、大抵のことで驚くなと言う事ぐらいだ。近衛騎士団全体が『どうにでもなれ』と唱えていた。
「お前達にヒントをくれてやろう」
『静粛に』とでも言うように、声を張り上げたのはポーシャだった。誰が、ここの主なのか分からなくなる。
「これから儂は出かけるが、行き先は告げないでおく。付いてこられても困るからな。
ここにある情報を紐解けば、利害関係の始点終点がはっきりしてくる。大抵は金銭関係だ。一つの例外を除いてな。
その理由を確かめに行く」
高らかに宣言したのを見て、我々は身じろぎすることも出来なかった。出かけるなら、出かけるで、『行ってらっしゃい』としか言えない。情けないものだ。
ポーシャはメイドを引き連れ館を後にした。
自分たちよりも先に仕事を済ませてしまった事に腹を立てる者もいたが、『目の前で言ってあげような』となだめるぐらいしか出来なかった。
その後、騎士団の面々が語り合ったのは、ヒントのその先ではなく、彼女のことだった。
魔女というのは、公爵が言っていたこと以前に、稀に噂話として耳にしていた。
東の悪い魔女。彼女が本物なら、ドクトル・ファウストに若返りの薬を飲ませたのは彼女と言うことになる。
そして、彼女自身はそれよりずっと長生きしているはずなのだ。
作品名:充溢 第一部 第二十五話 作家名: