「夢の続き」 第十一章 嫉妬
「正式って言っても、認めて欲しいということらしいけど」
「洋子をか?」
「うん」
「ちょっと待ってて・・・都合聞いてくるから」
電話口に秀和が出た。
「洋子ちゃん、こんばんわ。何だって、貴史から聞いたけどご挨拶に来られたいって言うことなの?」
「おじさん、そうなんです。母も父も一度話がしたいと申しますので、どうでしょう?」
「ご丁寧にすまないね。じゃあ、早いほうがいいから今度の日曜日にでも来て下さい」
「そうですか、ありがとうございます。そうさせて頂きます。あのう、貴史くんに代わってもらえますか?」
「いいよ、待ってて」
「代わったよ。なに?」
「恭子が話したいって。代わるね」
「もしもし、恭子です。お兄ちゃんに話したいことがあるの。今度いつ逢える?」
「そうか、明日学校の帰りに寄るよ。家に何時に帰っている?」
「うん、部活休んでくるから・・・四時にはいるよ」
「解った、五時頃に着くように行くよ」
「待ってる」
電話を切った恭子は嬉しそうな顔をしていた。
なんとなく気になる洋子ではあったが、考えないことにした。今の電話を聞いていたと信じたいからだ。
翌日学校で洋子は貴史に尋ねた。
「ねえ、恭子から何か相談を受けているの?」
「ええ?どうしてそう思うの」
「だって、話しがあるって電話で言ってたから」
「なんだろうね・・・」
貴史はとぼけた。上手く嘘がつけない性格だったから洋子は直ぐに見抜いた。
「本当のことは話せないの?私が聞くと都合が悪いことなの?」
「何言っているんだい!お前の妹のことだろう。俺に任せろ、心配するなって」
「貴史は信用できても、恭子が信用できない!」
「なんてこと言うんだ!おまえまさか嫉妬しているのか?」
「してないよ!あの子が貴史のこと・・・好きになったら・・・嫌なの」
「バカか!いい加減にしろ。そんな事ある訳がないじゃないか。お前との事知っているのに」
「お母さんだって貴史のこと好きになっているし・・・もう嫌なの!私だけを見てて欲しい」
「重症だなお前の嫉妬は・・・やってゆけないぞ、そんな気持ちでいたら。よく聞けよ。お母さんはお前の親だから
大切に考えている。そう言う好きだ。お母さんだって、洋子の相手として大切に考えてくれている好きなんだ。
恭子は俺の事兄だと思っていろいろ相談してくれている。好きじゃないぞ。頼っている思いがお前が誤解するような
言い方になっているだけだ。聞き方を変えれば、なんて言う事のない兄弟の会話なんだから」
「本当の兄弟じゃないでしょ・・・母だって貴史の本当の母じゃない。他人なのよ」
「俺が一線を越えるって心配しているのか?お前の母親と妹と・・・バカらしい。向こうが嫌がるよ」
「あなたは簡単に考えているのね。女はそうじゃないのよ・・・そうじゃないの・・・」
「そうじゃないのは、お前だけだよ。今度聞いてみるよ、お前の前でお母さんと恭子に」
「止めて!そんなこと。みんなが気まずくなるじゃないの」
「お前が気まずくしているんだぞ、解らないのか?」
「貴史は私のこんな想いが重いのね。鬱陶しい女に思えるのよね・・・」
「そんな風には感じてないよ。ずっと小さい頃から一緒に遊んで仲良くして来たじゃないか。今も変わらないぞ。
お互いに少し大人になって気持ちが強くなっていても俺は変わらない。お前以外に誰も好きになれないし、ならない。
信じろ。恭子の事は今日の夜にお前に話す。それまで待っててくれ」
「本当なのね・・・恭子と付き合うなんてならないよね?」
「今言っただろう?そんなことになんかなる訳ないじゃないか。それよりお姉ちゃんとして何でも相談に乗ってやれるように
しろよ。恭子はお前のこと大好きなんだから」
「うん、ゴメン・・・恭子に悪い事した。お姉ちゃん失格ね」
「泣くな!お前はお母さんが言っていたように誰よりも優しくそして笑顔が似合う素敵な洋子なんだから」
「貴史・・・」
洋子は自分が本当に情けないと感じていた。貴史の気持ちは知りすぎているのに信じられなくなってしまったことをだ。
今すぐに抱きしめて欲しいと思ったが、学校では出来ない。恭子との話が終わったら、自分の部屋で抱いて欲しいと
頼んでみようと期待した。
作品名:「夢の続き」 第十一章 嫉妬 作家名:てっしゅう