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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「初体験・佳恵編」 第一話

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第一話


佳恵と約束していたイヴがやって来た。終業式が終わって自宅に帰り両親に出かけることを話して自慢のVANルックで決めて夕方に梅田の待ち合わせ場所へとやって来た。
「お待たせ!佳恵、久しぶりぶりだね」
「うん、雄介も元気だった?」
「ああ、相変わらずだよ」そう返事はしたものの、相変わらずではなく大きな変化があったことを隠していた。
「ねえ、どこに行く?」
「今日は混んでいるだろうね、どこも」
「梅田はダメかも知れないね」
「十三(じゅうそう)に行こうか?」
「十三?」
「うん・・・そのう・・・夏に出来なかったから・・・心残りだって思うから」
「そんな事考えていたの?ずっと?」
「ずっとじゃなけど・・・いけないかい?」
「高校生ってバレたら、入れないんじゃないの?」
「バレないよ、堂々としていれば・・・な?いいだろう、お金はあるから」
「うん・・・でも今日は持ってないよ」
「何を?・・・あっ、そうか・・・買って行くか」
「恥ずかしくない?」
「うん・・・佳恵が買うって無理?」
「無理!」
「そうか・・・行くだけにしよう。何とかなるから・・・」
「・・・うん」

阪急電車に乗って淀川を越え十三で二人は降りた。
暗くなると一目でそこはどういう場所なのか解る景色に変わっていた。赤青緑のネオンに輝く歓楽街であった。
この時期恋人達の仕上げになる場所でもあった。人の流れに着いて行くようにして一番近い場所のホテルに入った。
入り口でお金を払い鍵を貰ってエレベーターで3階に上がり和風の内装になっている部屋に入った。雄介は初めて見る光景に後ろめたさと艶かしさの両方を感じた。佳恵はずっと黙っていた。
入り口で「2時間経ったら終了の電話しますから延長される時は事前にお願いしますね」と言われていた。時計を見て7時を少し回っていたから9時までだなあと言い聞かせた。駅でうどんを食べていたからお腹は空いていなかったが飲み物が欲しいと雄介は思った。

「佳恵、喉が渇かないか?」
「うん・・・冷たいものが欲しい」
「どうすればいいのかな・・・冷蔵庫があるから貰えばいいのか。何がいい?」
「何でもいい・・・」
バヤリースオレンジを一本取り出してグラスに分けて飲んだ。部屋は暖房で温かくはなっていたけど暑くはなかった。この喉の渇きはきっと興奮からなのだろうと佳恵の顔を見ながら雄介は感じていた。

「先にお風呂に入ろうか?」そう言って雄介は風呂場に向かった。自宅の風呂と違ってお湯を入れるようになっていた。熱湯と水を混ぜ合わせて湯張りした。

「佳恵、ちょっと広い風呂だよ」
「そう・・・」
「どうしたんだ?なんか元気ないぞ。イヤなのか俺とこうしていることが」
「違うよ・・・恥ずかしいの」
「二人だけなんだよ。ほら、こっちへおいで」佳恵をぎゅっと抱きしめて唇に触れた。
「好きだから・・・誰よりも佳恵のことが好きだから」
「わたしも雄介が・・・誰よりも好き」
お湯が溢れ出している事に気付かずキスをしていた。

「忘れてた!お風呂のお湯止めなきゃ・・・」走って雄介は風呂場に向かった。浴室の床に溢れるようにして湯がこぼれていた。

「どうだった?」佳恵が近寄ってきた。
「もったいないことをしたよ。こぼれていたから・・・なあ?一緒には入れる広さだぞ、イヤか?」
「明るいからイヤ・・・」
「電気消したらいい?」
「真っ暗じゃ入れないよ・・・先に入って」
「そうだな・・・じゃあ待ってて」
佳恵はベッドに腰掛けて雄介が出てくるのを待っていた。雄介は風呂場にあった大きな鏡がマジックミラーになっていることに気付いた。
電気をつけたベッドルームがよく見えるのには驚いた。ベッド側からは鏡になっているから気付かなかったが、どうしてこんなふうにしてあるのか疑問に感じた。
佳恵と交代した雄介はベッドの鏡に向かって手を振った。きっと佳恵も気付いているだろうと思ってのことだ。

「雄介・・・そっちからは見えないのよね・・・なんか恥ずかしいよ、見られているようで」鏡とは後ろ向きになって湯に浸かり、身体を洗った。
洗面所で服を着ようかバスタオルのままで雄介のところに行こうか・・・迷った。雄介が気を利かせて部屋を暗くしていたから、思い切ってバスタオルを巻くだけの姿でベッドに歩いていった。
さっと布団をめくって雄介は招き入れてくれた。夏のときとは違う雄介への強い思いが佳恵の身体を熱くしていた。
今日は上手く行く・・・そんな予感がしていた。
雄介は大きく深呼吸をして、絶対に頑張る!と気合を入れた。香奈枝に教わった優しくすることを思い出すように、佳恵の身体にそっと手を触れた。

一度、そして二度、二時間の間に雄介は佳恵の中で果てた。ベッドの枕元に置いてあった二つの四角い包みを使い切った。

寄り添うようにして何も話さずに二人は悦びに浸っていた。
突然電話が鳴った。ビクンとして雄介は起き上がり、受話器を取った。
「お時間です」
「はい・・・今出ます」
急いで着替えて部屋を後にした。ホテルの出入り口は混雑をしていた。今から泊まりで入って来る人たち、同じように帰ろうと出てゆく人たち、
顔を合わせることが恥ずかしくて佳恵は下を向いていた。肩を抱き寄せながら雄介は十三の駅まで歩いていった。商店街からジングルベルが聞こえる。二人にとって忘れられないクリスマスイヴになった。
阪神電車の改札口まで来て佳恵とさようならをした。なかなか帰りたがらない気持ちに雄介は、
「また逢えるから・・・早く帰らないと遅くなっちゃうよ」優しくそう言い聞かせた。
もう泣きそうになっていた。
「雄介が好き!帰りたくない・・・」
「俺もだよ。佳恵が好きだ。お正月に初詣に行こう・・・な?少し我慢しろ。すぐ逢えるから・・・」
「本当よね?何日に逢うの?」
「二日にしよう・・・またここで10時に逢おう」
「うん、絶対よ!」
「絶対だ」
「じゃあ・・・帰る。今日は嬉しかった、雄介も気をつけて帰ってね、遠いから」
「ああ、ありがとう・・・じゃあ、二日にな」

手を振って何度も振り返りながら佳恵はホームに消えていった。

なんか家にこのまま帰るのがもったいなく感じて雄介は行きつけの喫茶店に足を運んだ。
「雄介くん!今日もバイトだったの?」マスターが声を掛けてくれた。
「いいえ、いまデートの帰りなんです」
「イヴだもんな・・・いいなあ、恋人が居る人は」
「マスターだって居るんでしょ?カッコいいからモテモテなんじゃないの?」
「みんなにそうお世辞を言われるよ、ハハハ。好きな子はいないんだよ残念だけど・・・最近別れたからまだちょっと無理なんだ」
「へえ~そうだったんですね。すぐに見つかりますよ」
「そうだといいけど・・・雄介くんは二年生だったよね?」
「はい、そうです」
「羨ましいなあ・・・若くて彼女も居て」
「そうですか?マスターは幾つでしたっけ?」
「去年大学を出たから24だよ。もう結婚とか考える年になってきたから嫌になるよ」
「お店やられているからいいんじゃないですか?ご結婚されても」
「そうだけど、なんか老けちゃうような気がしてイヤなんだよ。気持ちはキミと変わらないつもりなんだから」